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第十八話 狂った舞踏の行く先に


ふっとこぼれた笑みとともに凍てつくような冷たい言の葉が聞こえる。


「モシア。お前はやっぱり何もわかってない」


呆れるような声でヴェーゼンが言った。


しかし、そこにはどこか確信めいたものがありまるでそのことを予期していたかのようだった。


「ふぅ。いい?この世界は魔力でできていた。その魔力を一部身に宿したのが魔力持ち。

 その魔力を持った者には世界の保護が働く。だから暗殺したりしようものなら世界が壊れる」


ここまで一気に語るとモシアはヴェーゼンを指し、


「君みたいな莫大な魔力を持つものは世界の中枢の一端を担っている。でもそれを教会のやつらは知らない」


そう言うとクルリとターンして壁の方を見る。


「あいつらは魔力持ちを神に背く罪人程度にしか思ってない」


いつくしむように壁をなでると、


「本当にむかつくよね」


ズガァン


壁が崩れる。まるでそこだけ張りぼてであったかのように。


「…こえぇ」


キフェルが呟く。


蹴っても殴っても崩れようのない壁をいともたやすく蹴破る少年の姿は怪物というのが等しかった。


「で?伝えるべきことを僕は伝えた。だからここから先は僕の好きにさせてもらうよ」


まるで何かを確認するかのように虚空に向かって言うモシア。


「あぁ、君たちは好きにしていいよ。それと、一つだけ訂正。世界が改変されるとしても僕らには魔力持ちを間引く必要がある」


「…は?」


気が付いた時にはもう遅かった。


その時には彼の姿は視界から消えていた。


いや、背後にナイフを突きつけられていたというべきか。


冷たく鋭利なものが肌を刺す。


「何のつもりだ?モシア」


キフェルが引き攣った声で言う。


モシアは表情一つ変えずに言う。


「なんの…つもり。ねぇ」


まるで面白がるように、それでもどこかつまらなそうに。


「別に?意図なんてないよ。ただの暇つぶし。僕だって好きでこの年で教祖なんてついてないよ」


キフェルは息をのむ。


意味もない暇つぶしで、ナイフを突きつけられるなんて。


「ふ~ん。じゃ、僕は帰るから勝手にしといて」


それに臆することもなくヴェーゼンは興味なさげに言う。


しかし、その声はわずかばかり緊張しているかのようだった。


「あ、ちょ、ヴェーゼン。ここどれだけ高さあると思ってるんだ?」


壁の穴から飛び降りようとした。


そのヴェーゼンの手をキフェルは懸命に引っ張る。


しかし、ヴェーゼンはそれをうざったそうに振り払う。


「怖いならついてくるな。せいぜいその殺人鬼と仲良くしてればいい」


振り返ることもなく言う。


その声にはここから一刻も早く立ち去りたいという意が現れていた。


「サツジンキってね。否定はしないけどちょっとひどくない?せめて暗殺者とかにしてよ。

 趣味じゃなくて仕事なんだから」


軽く言うモシアにキフェルは頬が引き攣るのを感じた。


「あのなぁ、お前と違ってこっちは普通の人間なんだ。落ちたら死ぬし、刺されたら死ぬ」


キフェルは呆れたように言う。


まるで、ヴェーゼンの方がわからずやの子供みたいに。


「…逆に僕が死なないとでも思ってるのか?怪我しないとも思うのか?」


はぁ、とヴェーゼンがため息をつく。


そして少しだけ困ったように、


「魔力があるから?でも、それでも僕はここに居続けるわけにはいかない。退屈な囚人でいてはいけないんだよ。こんな、暇つぶしに人を傷つけるような奴らとは」


それにぐうの音も出ないようにキフェルは黙る。


だって、ヴェーゼンの言ったことは正しかったから。


それでもキフェルの中には恐怖心がくすぶり続ける。


「けど俺様は――」


「じゃ、そういうことで飛び降りるよ。ワンツースリー!」


フワッと表現すれば優しいが、二人を浮遊感という名の恐怖が襲う。


同時に自由落下による低温が二人の肌を凍らせる。


「さっむ。おい、ヴェーゼン。ちょ、これマジでやばい奴じゃねぇ?」


慌てたようにキフェルがヴェーゼンに言う。


対するヴェーゼンは…


「……」


気絶していた。


燃える街が眼下には広がり。


夕暮れ、茜の陽射しが目を刺す。


「ちょ、責任とれよ!」


迫ってくる大地が目の前にある危機を実感させる。


キフェルは無我夢中に暴れ、ヴェーゼンを蹴り、そしてあきらめる。


「なぁ、ヴェーゼン起きてねえよな?」


そう、手近にいるヴェーゼンに問いかける。


ヴェーゼンからはもちろん何の返答もない。


「そっか…もう、本当にどうしようもないのか」


そうあきらめたように言うと、


「じゃ、こうするしかねぇよな!」


少しだけ楽しそうにけれど寂しそうに…。


それは小さな革張りの本だった。


表紙は薄く光っており幾多もの魔法陣が描かれていた。


「《重力式へ接続》」


そう一言呟けば本はひとりでに開き、何かが書かれている。


もっとも、読めもしない幾何学的な文字だが。


「《半径一メートル以内の重力レベルを低下》」


その瞬間落下が止まった。いや、どちらかというと遅くなっただけとでも言えるのか。


バサッ


「本当にこんな力使う日が来るとはな。師匠様様だぜ」


白い手袋、黒い執事服に身を包んだキフェルはそう言って笑った。

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