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番外編、不幸の塊という名のなにか

番外編です。

本日、2話同時に投稿いたしました。

こちらは1話目です。








 シャロンは鼻歌を歌いながらダグラスの腕に自分のほっそりとした腕を絡めていた。

 今日はウェヌスとラズヴェルの結婚式だ。

 卒業から十日が過ぎていた。

 ラズヴェルは、本当は卒業したとたん結婚したかったが「それではあまりに慌ただしいわ」と王妃が言うので、やむなく十日後にした。

 夏の休暇後にウェヌスは一度帰国し、男爵令嬢追い出し作戦が急ピッチで進んでいることを確認するとラズヴェルに「結婚話をすすめましょう」と伝えた。「私も愛してます」という言葉とともに。

 それからのラズヴェルの動きは速かった。王族としては最速であろう半年後の結婚式と宴の予定を決めた。我が国は春が卒業なので、卒業したら即結婚と言い張った。

 王妃としては余裕をもった日程が良かったが、ラズヴェルが「人生、なにがあるかわからないから」と昏い瞳で母に訴えて認めてもらった。


 シャロンとダグラスは十日前に式を済ませていた。まさしく、卒業したとたんだった。

 アロンゾとマレーネはその明くる日に、ジーナとジェイドはさらにその次日に結婚式をあげている。

 シャロンとダグラスがハッピーエンドになるとは、ウェヌスたちは思っていなかった。ダグラスの粘り勝ちだろう。

 あのゴシップ誌が出回り、ライト家にディブロ侯爵家から「婚約は取り止めたい」と申し入れがあってから、ダグラスは毎週、異界の森に籠もって狩りをし、ディブロ家に「お詫びの品」として獲物を届けに行った。

 詫びに行っても門前払いだったが、デカい魔獣を担いで門前で粘ると、目立つからと屋敷に入れて貰えた。それで味を占めたのか、修行の成果を見せたかったのか、ダグラスは目立つ獲物を狩っては運んだ。

 シャロンは友人たちに「貢ぎ物がネコっぽい」と揶揄われた。

 狩ったネズミを銜えて飼い主に運ぶネコと一緒にされてるぞ、とダグラスも友人に揶揄われたが、シャロンが私の飼い主! と悶絶して喜ばせただけだった。彼の喜ぶツボがわからない。

 四人の中では最初にダグラスが結婚を決めた。シャロンが根負けした形だが、シャロンは強い男が好みだったので、惚れ直したのが正解だった。

 惚れていた従兄弟も騎士科の大会で毎度、優勝の強者だった。

 シャロンの両親は「筋肉マッチョすぎるし、武道オタクの脳筋で話が通じない」と不評な従兄弟だった。おまけに本人からは、シャロンは妹にしか見えないと言われていた。

 ダグラスが魔改造されたので、許すことにした。


 式場に到着し、シャロンはジーナたちと合流した。

 二人とも幸せそうだ。ジェイドとアロンゾも満面の笑みだ、もうなんの憂いもないという顔だ。天気は良く、心まで晴れ晴れしている。

「アレ」がフリスタ共和国に旅立ってから二か月が過ぎていた。とんでもない早業だ。

 あまり焦るとこちらが始末しようとしているのがバレないかと不安だったが、メリールーは腕輪を返却したあたりから、美男の工作員に「早く国を出たい」とせっついていたという。

「この国、なんか、意地悪で嫌い」と彼に涙ながらに訴えていたらしい。

 すでにメリールーは秘術が使えなくなっているので、そのことがフリスタ共和国に知られたら本当に不味い。ジェスベル王国としては、焦っていることは知られたくないし早く始末したいしで、裏では関係者が禿げる想いだった。


 王宮は神官長に頼んで、作戦成功の祈願をし続けてもらった。腕輪の件で効果が絶大とわかったからだ。

 国王は自分が蒔いた種だというのに、自分がやった結果をよくわかっていなかった。ラズヴェルたちがあんなに苦しんだのに無責任すぎる。

 今も王妃が報復中だ。メリールーと関わった者たちは事情をわかっていたので、国王は疎外されている。ラズヴェルが即位するのもそう遠くないだろう。

 王族や一部貴族は御守り石と呼ばれる精霊石を身に付けているが、国王はなぜか外していた。

 紐が悪くなったからという理由らしいが詳細は定かではない。国王は孤児院に光魔法属性の子がいると聞いて、取り立てようと思い付いた。

 それから、不幸がやってきた。


 メリールーの母親は、ステア男爵の契約した愛妾だった。

 ステア男爵夫妻になかなか子が生まれなかったからだ。それで、止むなく相手を選んだ。

 母親であるマリの家は商家だった。マリは治癒師として近所の治癒院で働いていた。マリは子供は産み育ててみたかったが結婚はしたくなかった。マリの両親が二人して愛人を作るような夫婦だったからだ。

 マリは治癒師として稼ぎがあったので一人で育てられる。乳母も雇える。だから、子だけほしかった。

 男爵に話を持ちかけられたとき、一人余分に産ませてもらおうと最初から企んでいた。

 ところが、男爵夫人は付き合い出して間もなく妊娠してしまった。

 マリは、契約解除を申し入れに来た男爵に酒を飲ませて迫り行為に及んだ。

 酒に弱い男爵は、媚薬まで盛られて逆に襲われてしまった。

 目が覚めてから「妻は妊娠したので、子はもういいんだ。避妊薬を飲んでくれ」とマリに言い、マリは飲んだ振りをした。

 その後、マリが妊娠したらしいと、マリの治癒院の院長から聞いた。

 治癒院は、男爵家の商売上の取引相手だった。マリの実家とも、男爵家は取引があった。そんな関係でマリを知り紹介してもらった。それなりに信頼していた相手だったが、男爵は裏切られた。

 マリは「ぜったいに迷惑はかけません。結婚も迫りませんし、認知も必要ありません」と魔法契約までしたので、夫人とも話し合って、契約して済ますことにした。


 それから十年近くが過ぎてから、国王に王命まで使われて認知する羽目になった。

 ただし、魔法契約までしているので王宮側も配慮した。

 男爵とはなんら関わりがないようにするし、万が一のときは速やかに絶縁すると確約した。

 男爵は、なぜ頑なに認知を拒んだのかといえば、マリのやり方に憤っていたからだ。とはいえ、マリの子が欲しいという切々とした訴えにも少し絆されていたので、穏便に許したつもりだった。

 国王まで出てきたのは驚いたが、それきり、忘れることにした。

 ことの顛末を聞いて、そんな怖ろしい娘だったのかとさらに驚いた。


 国を出てくれて、本当に良かった。

 なぜ、あんなに母親に望まれて産まれた子が。マリは可愛がって愛して育てていたのに。男爵は何度か信用できる使用人に様子を見に行かせたのに知っている。マリは我が子を大事に育てていた。

 謎が多い。


 男爵は、直接はメリールーと会ったことがない。

 そのため、実父ではあるが不幸に遭遇したことはない。

 これからも会うつもりはない。

 海外旅行はしないようにしようと思う。

 メリールーはジェスベル王国には入ることはできないが、他の国はわからないからだ。

 密入国もきっとできない。きっと、無理だ。

 そう信じたい。

 

 白亜の国教施設で、ウェヌスとラズヴェルは笑みを浮かべていた。

 祝福され、今宵、二人は夫婦となる。

 メリールーという、得体の知れないものがそばにいたころは、なにか強烈な力が働いていた。

 ありとあらゆる偶然が、二人を引き離しにかかっていた。

 なぜあんなことが起こりえたのか、不思議でならない。

 一つの出来事が、ドミノ倒しのように無数の偶然を引き起こす。

 この世の中は、どちらかというと、幸運が支えているのだと思う。

 うっかりよそ見しながら歩いても、少しくらいなら大惨事など起こらない。

 うっかりしているものがいても、運の良い世の中であれば、平穏な暮らしがそこにある。

 いつも完璧にミスなく動けるとは限らないのだから。

 神様はきっといるのだろう。

 世の中は、まぁまぁ良い具合に進んでいく。

 それが根底から崩されるのが、メリールーの存在だった。

 ラズヴェルは、ごく身近であれに執着されていた。

 不運が重なって、あれの関係者になった。王子だというのに、不運の塊のようなものが目の前にいた。

 怖ろしかった。

 うっかりペンを落とすと、必ずあれが踏みつけて折った。

 丈夫なペンのはずなのに、美少女の華奢な足で一発、バキンと音がしてゴミになった。

 生徒会創設以来、ずっと使われていたティーセットが三日もしないうちに粉々になった。

 あれが、ただ躓いただけで、ポットもカップもソーサーも一つ残らず割れた。

 全滅だ。一つくらい生き残ってもいいではないか。

 空恐ろしい力が働いているとしか思えなかった。


 ダグラスは、見た目はそうは見えないが、生粋の脳筋だった。仲間はみんな知っていた。

 だから、強くて、鈍かった。生命力は四人の中で一番、強かったんじゃないか。

 美少女の姿をしたアレに油断した。

 気を付けろと言っても、よくわかっていなかった。

 ゴシップ誌に、なぜか頬笑んだ姿で載せられた。よくよく聞いたら、遠目からシャロンを見かけて頬笑んだタイミングで撮られていた。

 凄いな、と思った。

 こんな不運があるんだ。

 友人のことながら、感心した。

 他人事ではなかった。

 ラズヴェルは御守りの精霊石を絶えず身に付けていたが、なぜか濁ってきた。


 ウェヌスから「その汚物、もういいから、敵国にくれたら?」と言われたとき、奈落の底で光を見たような気がした。


 国教の施設で厳かな式が終わった。

 二人はきっと、幸せになれる。

 国神が祝福してくださったのだから。






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― 新着の感想 ―
 これがいわゆるゲームの強制力だとして、ここまで本人以外の当事者たちにとって悍ましく描かれている作品は見たことがない…本当にホラーですね。
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