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4)ラズヴェル

本日、2話同時に投稿いたしました。こちらは1話目です。




 衝撃的なゴシップ誌が出回ったのち、学園と王宮は慌ててラズヴェルたちに「メリールー嬢の世話はしなくていい」と言ってきた。

 当たり前だ。

 こんなことを頼んでくることから間違っていた。

 だが、そんな依頼を引き受けたのが馬鹿だった。悔やんでも悔やみきれない。

 メリールーを追い出した生徒会室は、まるで葬儀の場のように陰気だった。

 すでに、ラズヴェルと側近たちの家には「婚約はなかったことにしないか」と打診が来ている。

 ゴシップ誌に最も数多く登場したダグラスは頭を抱えて机に突っ伏している。あんなに婚約者に惚れ込んでいた男が、とんだマヌケな浮気者として社交界を賑わしている。

 他の側近たちも似たようなものだ。

 ラズヴェルの写真が一枚もないのは、実際にラズヴェルはメリールーに触れさせていないからだ。さすがに、ウェヌスに言い訳が立たないだろうと思い「淑女としてのマナーを守るべきだよ」と避けた。

 他の側近たちも断れば良かったのだ。

 ジェイドとアロンゾはなるべく避けていた。無理矢理腕を掴まれたところを写真に撮られたのは明らかだ。

 ダグラスはそういうところで気弱が出て、断り切れずに餌食になっていた。

 プレゼントの件もそうだ。誕生日プレゼントが欲しいとさんざん強請られ、毎日のように言われ、とうとう買ってやった。とはいえ、高価なものを贈ったら婚約者に誤解されるからと子供だましの安物を贈った。それが、ゴシップ誌の誌面に堂々と掲載された。

 見れば、あんな安物はあまり親しくない友人にくれた程度のものだとわかるだろう。

 ラズヴェルも側近たちも婚約を駄目にするつもりはなかった。

 麗しく愛らしく、理想の婚約者だと思っていた。四人とも自慢して惚気るくらいにベタ惚れだった。

 ウェヌスは天使みたいだった十歳のころからラズヴェルの婚約者だった。

 初めてのエスコートも、初めてのダンスも、思い出はいつも彼女と一緒だ。負けず嫌いなところも可愛くて、結婚して家族になるのだと、それが当たり前だと思っていた。順風満帆だったというのに。

 学園から、メリールーに関して「珍しい光魔法属性持ちではあるがずっと市井で暮らしてきた女生徒で、マナーなどがお粗末であるし学園での過ごし方もおぼつかない。生徒会で後ろ盾をしてあげないと他の生徒からさげすまれるだろう」と相談を受けたので気遣うことを約束した。

 それくらいであれば良かった。

 最初は、時折「困ったことはないか」と尋ねるだけだった。

 そのうちに、王宮から「フリスタ共和国からの留学生がメリールー・ステア嬢に纏い付いている。生徒会の方で保護するようにしてくれ」と頼まれた。

 保護などする必要はないだろう。

 一度は断った。だが、陛下からも言われてやむなく引き受けた。


 馬鹿馬鹿しいと思った。

 側近たちも同様に思っていた。

 なぜなら、メリールーは国や神殿を裏切ることは出来ないのだから。

 メリールーは一年半かけて光魔法の治癒を修行した。ふつうは長くて一年くらいと聞いているが、彼女は一年では足りなかったわけだ。

 彼女が習った治癒の魔法は、その昔、国の魔導士と国教の神官が編み出した技術だ。少なめの魔力でも光魔法属性を持っていれば治癒魔法を使えるという優れものだ。

 その代わり、小難しいコツが要るし、秘術に使う魔導具の腕輪も要る。

 この治癒術は国の技術だが、神殿の技術でもある。

 ゆえに、習う前には双方から重ねて契約魔法を使われる。秘術を守るためだ。

 もしも、メリールーが他国の人間と婚姻し国を出て行くのなら、習った技術は使うことは出来なくなるし、彼女は違約金を払う必要がある。腕輪も、もちろん返却だ。

 腕輪は高級な魔導具ではないが、先人の工夫が凝らしてある点で価値がある。見た目は素朴で貧相なので貴重な魔導具には見えない。

 違約金は、表向きは教育にかかった費用の返金、という名目になっている。秘術は、その存在からしてなるべく公にはしたくない。

 国としては、せっかく治癒魔法を覚えた光魔法の使い手を失いたくなかった。そういった理由で、フリスタ共和国の留学生がそばにいる間は、メリールーを生徒会室に出入りさせて遠ざけていた。

 メリールーが生徒会室に来るようになって、ラズヴェルたちは、すぐにこんな約束をしたことを後悔した。

 生徒会は会長、副会長、会計、書記の四人が四役と呼ばれ、中心となって活動している。あとは、一年の後輩が庶務四人で、補佐と呼ばれる。四人は一年間、補佐をして役割を覚えることになっていた。つまり、次期四役だ。

 生徒会には学園の事務員も頻繁に出入りしていて、印刷や郵送物などの手伝いをしてくれる。生徒会の四役の学生たちは実家の雑務でも忙しいためだ。

 それでも、生徒会ならではの雑務はある。

 メリールーがやってきた初日。

 生徒会室の机に置いてあったようやく整理した書類を、(つまづ)いて机に突っ伏したメリールーが残らずはたき落としてしまった。

 どうしてここまで悲惨な有様にすることが出来たのだろう。ただ躓いただけで。

 ジェイドは「ぜったい、わざとだった」と怒りの形相だったし、他の三人も内心では憤怒していた。あまりにもわざとらしかった。

 本人は「ご、ごめんなさい、私、ホント、ドジっ子で」と目をウルウルさせていた。

 ラズヴェルは、ウェヌスがウルウルしてれば一も二もなく許しただろうが、この厄介女など許す気はない。けれど、彼女を生徒会室に連れてきたのはラズヴェルたちなので何も言わなかった。

 それからもメリールーは、こちらが何も言わないのを良いことにあらゆる邪魔をしまくった。

 彼女はなにもないところで毎日(つまづ)き、書類を飲み物で台無しにし、あるいは修復不可能なくらいまで引き裂いた。

 生徒会の備品も壊された。複写の魔導具やペンや書類綴じなど事務用品、資料室の魔導具の灯りが壊れて捨てることになった。昏くなってしまったので一時的に蝋燭を使ったら、彼女に燭台を倒されてボヤになりかけた。そのときも、必要な資料が焦げてしまった。

 なぜ? と四人は不思議でならなかった。なぜこんなことをする必要がある?

 そのたびにメリールーは「私、いつも一生懸命なのに、ドジっ子で」などと納得できない言い訳をする。

 後輩の補佐たちが疲弊し始めたので、隣の準備室で手伝いなどをしてもらうことにした。学園の職員には、準備室と生徒会室と両方に来て貰った。学園があの女を寄越したせいでもあるので人を増やしてくれた。

 四人にとってメリールーは憎悪の対象となっていた。

 メリールーは、しばしば「お詫び」と称して手作りの菓子を持ってきた。

 四人はそれぞれ王族と高位貴族の令息なので、得体の知れないものは口にしない。ゆえに、その場では「空腹ではないので後でいただこう」と貰っておき、侍従に調べさせた。そのたびに、「尋常でない量の塩が入っています」とか「金槌を使わないと割れないほど固い」とか食べ物とは思えないものを寄越す。

 あげく、生徒会室の外でも四人の体に触れようとする。いったいなんのつもりか、婚約者でもないのに。

 婚約者に誤解をされたくない四人は必死で避けた。

 ダグラスは避け損ねていたが、ジェイドとアロンゾは上手く避けていたにもかかわらず、幾度か失敗した場面のみを写真に撮られて雑誌に載った。

 こんなことで婚約を駄目にされてたまるか!


 それでも、落ち度があったためにゴシップ誌に載り、婚約解消などという話まで持ち上がっている。

 ゴシップ誌に掲載されてから四人は何度も婚約者の家に詫びと説明に行っている。

 ウェヌスは留学してしまったために会えないが、ラズヴェルはローゼリア家の夫妻には何度も詫びている。ウェヌスにも手紙を書きたかったのに、公爵夫妻は留学先を教えてくれなかった。調べればわかるかもしれないが、許しを得るまでは我慢した。

 そんな中で前期の期末試験が行われた。

 これで成績も酷かったら余計に婚約者の家から拒絶されかねないので四人は必死に頑張った。

 幸い、生徒会の仕事に関しては、メリールーの件の詫びとして学園側がさらに助っ人を余分に寄越してくれた。

 そもそも生徒会の雑務は、メリールーが毎度台無しにしなければなんら問題なかった。

 生徒会のやることは学園と生徒間の橋渡しや各委員との連携と調整、催事の企画などだが、ラズヴェルはもうなにも考えずに、学園からの助っ人に仕事を明け渡した。

 本音では、王宮の連中にも押しつけたいくらいだった。婚約破棄されたら慰謝料を請求してやろう。

 四人は生徒会を忘れて試験に注力した。

 ようやく試験も無事に済んだころ、ラズヴェルの元に隣国に留学中のウェヌスの様子を探っていた侍従から情報がきた。

 ウェヌスは「婚約は絶対的なものではない」「取りやめになる可能性がある」などと友人らに話し、さらに、「バレリス・ガゼル伯爵令息と急速に親しくなり噂になっている」。

 ラズヴェルは怒りや焦りや嫉妬で血が上り、頭が熱で逆上せた。



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― 新着の感想 ―
えっ、すべて誤解だったのか。厄介聖女?のせいで婚約破棄の危機とか令息たち、可哀想
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