ランダイオ5
「小難しい話は、腰を据えてしっかりやりましょう。土産を持ってきました。猪と鹿の塩漬け肉です。他にパンと麦酒もあります。それらを食べながら話すのはどうですか?」
うちの兵に声をかけて、持ってこさせる。旅籠に用意させておいたものだ。商人に金を渡して、ここまで運んでもらった。
「皆、手分けして調理場へ運び入れよ! 酒樽はそのまま大広間へ持っていくのだぞ!」
というふりで、城内の安全確保をさせる。
「そういえば、ビーセルの竜殺しは一人でこちらに? お付きの者がいたのでは?」
「おりましたが……」
「全員連れてきてください」
しばらくすると、男が三人連れてこられた。一人は身なりがよいが、二人は質素だ。従者と下働きというところか。下働き達は下を向いてぶるぶる震えている。従者だけが俺を睨みつけていた。
「顔を見せろ」
うちの兵が後ろから顎を持ち上げ、俺へと向ける。下働き二人は、ぎゅっと目をつぶり、かたくなに俺を見ようとしない。
従者が叫んだ。
「この者達は命令されて、ただ荷物を運んだだけだ! 竜殺し様とは口を利いたこともなければ、顔を覚えられてもいない! 居合わせただけなのだ、解放してやってくれ!」
べつに殺そうとは思っていない。いや、殺せば見せしめとしてちょうどいいかと考えはしたのだけれど。
俺が三人の首をはねるのを見れば、ランダイオ民は俺を恐れて、逆らうのをためらうようになるだろうから。
でも、基本的に、殺さないで済むなら殺したくないんだよ、人は。
「では、取引をしようか。
おまえ達の命を助けてやる代わり、下人二人はそれぞれ一度、おまえは下人二人とおまえの命の分、しめて三度、エヴァーリの者を助けるというのはどうだ?
ただし、それを今すぐ鍛冶の神に誓え。誓いを破ったら、その金槌と金床でもって魂を粉々に砕かれてもよい、と。
それができた者だけ解放してやる」
魂を砕かれれば、死後に神の御許で過ごすことは叶わなくなる。砕かれた欠片は火床にくべられ、燃え尽きる。完全な無に帰すのだ。
「俺はそれでかまわない。
おまえ達、誓いを立てろ」
「そ、そんなこと言われても、エヴァーリの人と会うことなんて、ありゃあしねえですよ。まして、命が危ない人を助けるなんて」
「これまでだって会ったことないのに、もし一生会えなかったら、か、鍛冶の神になんて、恐ろしくて」
震えが大きくなって、ガチガチと顎を鳴らしている。失神されたら話がややこしくなる。助け船を出すべく、ふっと失笑をもらしてみた。
「エヴァーリに行けば、いくらでもいるだろ。本当にやる気があるかどうかの話だ。それに誰も命を助けろとは言ってない。困っていたら手を貸してやれと言っているだけだ。
まったく。命を助けてやってもいいと言っているのに、あれこれ文句ばかり。人の城だから血で汚すのは遠慮していたのだが。……ああ、もう面倒だ」
男達の顎を掴んでいる兵に目配せしてみせると、従者が怒鳴った。
「俺がエヴァーリに連れて行ってやる! だから今すぐ誓いを立てろ!
エヴァーリ公、彼らは俺に泣き言を言ったまで! けっしてあなたへ要求をしたわけではありません! 俺への罰はどのようにしてもかまいませんから! どうか、どうか、今一度の猶予を!」
煽った甲斐があった。思ったとおりに必死に言いつのってくる。よしよし。
俺は、ははっ、と声をあげて笑ってみせた。
「よく回る口だな。……だが、まあ、面白い。いいだろう。では、おまえは、三人分の無礼を上乗せで、六度助けよ。……そうだ。そのうち一度は俺のためになることをしろ」
「はい、かまいません。感謝します」
下働き二人に目を向ける。薄目を開けて様子をうかがっているので、見られたことはわかるだろう。
「それで、おまえ達、どうするのだ。誓いを立てるのか?」
「はい! はい! 誓わせていただきます!
鍛冶の神様、鍛冶の神様、最強の金槌の主、偉大なるガラガッド様! 俺は必ずエヴァーリの人を一度助けます! 誓いを破ったら、金槌で魂を砕き、火床にくべてかまいません!」
「鍛冶の神様、鉄槌の王様、片目の偉大なる戦士、ガラガッド様! 俺は必ずエヴァーリの人を助けます! ええと、一度、絶対! 誓いを破ったら、金槌で魂を砕いてください!」
従者も虚空を睨み声をはりあげた。
「聖なる鍛冶殿に御座すいと尊き神、ガラガッドに畏み畏み申し上げ奉る! 我、ローレン・ソレイミオは、エヴァーリに生まれし人を、六度助けると誓う! この誓いを破りし時は、その金槌と金床でもって魂を砕き、火床にくべられよ! どうかこの誓いが果たせるよう、恩寵を賜りたまえ!」
「たしかに見届けた。誓いが果たされることを祈る。ガラガッドの加護のあらんことを」
剣の鞘を叩いて金音をたてる。ガラガッドへ願いが届けという呪いだ。
「この者達に、自身の荷物と水と食料を持たせ、城の外に出せ」
兵達に連れて行かれるのを見ながら、傍らのウィルバートに、「何か持ってないか?」とこそっと聞く。
「何かって何ですか?」
「何かこう、俺だとかおまえだとかわかるもの」
「ええ? ……封印ならありますけれど」
「それだ! それを一つ押して、ローなんとかに持たせろ。困ったら城を訪ねろって」
「ローレン・ソレイミオです。俺が覚えておきますけれどね。また甘いことを言って。悪用されても知りませんよ」
「しないだろ、あいつは」
ウィルバートが口を閉じて、不服だという目で訴える。それに小首をかしげて笑いかけると、
「まったく、まったく、まったく、もう!」
悪態をつきながら封印を懐から取り出し、火を探しに離れていった。




