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竜眼公の日常  作者: 伊簑木サイ


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ランダイオ1

 ムンドールの竜殺しの遺体の偽装が完成するまでに、十日がかかった。


 まず獣に囓らせるために森に数日置いておき――行き倒れはだいたいそうなるので――、その後、腐敗を進めるため高温の部屋に放置した。

 終わった後は丁重に棺に納めた。べつに遺体を辱めたかったわけではない。ランダイオがうちを襲う前に竜に殺されていたという、こちらの主張に沿う状態にしておく必要があっただけだ。


 遺体の偽装をしている間に、砦候補地には親方と工作兵を派遣しておいた。本格的な場所の選定と設計には、少し時間がかかるからな。


 同時に必要になりそうな資材も商人に発注して、工面できた物から輸送を開始させている。工事にすぐに取りかかれるようにというのもあるが、なにしろ他同盟内での行動なので、大量の物資が急に動くと、こちらの動きを察知されて、邪魔が入りやすくなる。そこで、物資の流れがつかまれないよう、少しずつ用地の近隣に資材を貯めておくように指示したのだ。


 ちなみに女王は、会議が終わった翌日には去って行った。オーレリア殿とウルム卿、それに護衛六人と侍女三人を残して。


 実を言えば、ムンドールに派遣する人員に、この二人が選ばれたことには、少し驚いた。たった十人を付けただけで、まだ十六歳の娘を送り出すとは。それにウルム卿だって成人前である。

 ただ、ウルム卿を選んだのは、もしかしたら俺が成人の竜殺しを殺した状況から、子供の竜殺しの方が殺されにくいと判断したのかもしれない。


 まあなんにせよ、あの女王が選んだのだから、能力に問題はないはずだ。それに、気の合う二人が残ってくれたのは嬉しい。少なくとも、話し合いの必要があるたびに、気を張らなくていいのは助かる。


 そんなわけで、とうとうムンドールまで遺体を運んで行く日が来た。


 父上には城の中で挨拶を済ませてきた。本来ならエヴァーリの竜殺しは、よほどのことがなければ、全員が城を下ることはない。高い位置から状況を把握し、必要な場所に駆けつけるようにできている城の利を生かすためだ。


 父上の怪我の痛みはもうないらしく、「城主殿が不在の間の城の守りはお任せあれ」なんて、大仰に言っておどけていたから、もう心配ないのだろう。本当に安心した。物を押さえたり引っ掛けたりできる義手を着けて、武闘鍛錬に励んでいるくらいだ。


 ちょっと覗きに行ったら、鍛錬中に壊した義手を前に、鍛冶の親方と、ああでもない、こうでもないと相談していた。バネ仕掛けがどうとか言っていたから、帰る頃には画期的な義手ができあがっているかもしれない。


 さて、城門の前に着いてしまった。城の上から肩車してきたルーシェを下ろし、その前にしゃがむ。


「行ってくるな」

「いってらっしゃい」


 口を泣きそうにひん曲げたルーシェが、唇を震わせて言った。


「お土産買ってくるからな」


 よしよしと頭を撫でて撫でて撫でる。このふわふわをしばらく味わえないとは。連れていきたい。が、さすがに今回は部外者が多すぎて無理だ。ルーシェが女だとバレたらまずい。特にオーレリア殿はごまかせないだろう。

 もちもちのほっぺたも、よーくむにむにしておく。

 最後にコツンと額と額を合わせた。


「エヴァーリを頼んだぞ」


 額を離して顔を覗き込むと、目をキラキラと見張っていて、「うんっ」と力強く頷いてくれた。そうそう、そういうふうに元気でいてくれないとな。


 後ろ髪引かれる思いを振り切って立ち上がり、城門外の隊列へと向かう。馬に乗って号令をかければ、四騎の護衛が先立ち、その後にヴァユの馬車が続いて、橋へと動きだした。


 城の前の川に架けられた橋は、竜が死に絶えた後に、うちのご先祖様が建造したものだ。竜殺しの家系がまだ三家門あった頃の話で、彼らがまさに力任せに橋脚を造り、橋板を渡したという。


 元々エヴァーリは流通の拠点で、城の前を流れる支流や、右手のすぐのところで合流する大河から荷揚げした物と、街道を使って運ばれる物が、交易される場所だった。


 竜に襲われるせいで長距離の移動が難しくなっていたのが、竜が死に絶えてから物流が戻りはじめ、ここに橋を架けたら商人がもっと多く集まって、儲かるんじゃないかと思ったらしい。それ以来、ここの通行税は良い実入りになっている。


 とはいえ、ただ通すだけで金が入ってくる、というわけではない。橋から続く街道の安全込みの値段だ。

 道に倒木があるだの崩れただのと聞けば土木作業員を派遣し、盗賊が出たといえば討伐に出掛け。獣だって定期的に狩っている。手間も金もかけて治安を維持しているのだ、金をもらわなければやっていられない。


 ……馬車があといくつだ? 俺が橋を渡る順番がなかなか来ないな。車列が長くなるのはいただけないのに、ヴァユの荷馬車が全部で四台もあるんだよな。


 どうにかできないかと聞いたら、これで最低限だと、オーレリア殿に言われた。二つが女性陣のもので、一つが騎士達のもの、一つが食料品、だという。


 うちは遺体用に一つ、荷物や非常食に一つだ。大半の食材は現地調達だし、安全確保のため、泊まるポイントには先に斥候を遣ってある。


 帰りは何事もなければ、この川を舟で下って帰ってこようかと思っている。ランダイオ兵が舟で急襲したルートだ。


 上りも使えたらいいのだが、この川は大河に比べると急流で幅が狭く、櫂で漕いだり帆走できないため、どうしても下り専用になる。


 ちなみに、下った舟は帰りはどうするのかというと、綱で繋いで、人や馬が川沿いの道を歩いて引いていく。

 その際も運び賃を得るために、一般的には何か軽い荷を載せるものなのだが、重い荷は無理で、人ならば一艘に二人乗るのがいいところだ。これだと、要人を運ぶのに護衛が一人しか付けられないし、遮蔽物もないところをのろのろ進むことになる。とてもではないが、オーレリア殿を連れては使えない手段だ。


 実を言えば、舟に乗らなくても川沿いの道を行けば、ムンドールまで最短ルートだ。ムンドール城は川の(ほとり)にあり、舟着き場を管理しているのだ。


 なのだが、今回はどうしても、川向こうの街道や地形を見ておきたかった。これからランダイオとムンドールを取り込み、同盟の勢力圏を書き換える。軍事衝突はまぬがれない。その時のためだ。


 それ以外にも、「ランダイオの竜がムンドール城主を殺した」と吹聴してまわりたいし、ランダイオ城主に会って、どんな人物か実際に確かめておきたい。


 そういった諸々の理由で、ランダイオ経由の道を行くことにした。


 ああ、ようやく、ヴァユの面々が橋を渡り終わった。うちの護衛が動きだす。その次が俺だ。


 馬を進める前に振り返る。

 城の外まで出てきて――母上と手を繋いで――見送ってくれているルーシェが、飛び跳ねて手を振ってくれた。

 それに手を振り返し、初めて領外の旅に出たのだった。

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