第9章:観測者
その頃、都市のさらに遠く、廃ビルの最上階。
かつて防衛軍が使っていた監視施設。その内部で、ひとつの存在が静かに目を覚ました。
全身を黒い外套のような機構に包まれ、顔はマスクの奥に隠されている。 背後にのたうつケーブルが、床や天井の端末に接続されていた。
《記録更新:対象個体 “リン=13番” 覚醒反応 確認》
金属的な音声が、空間に響く。
《補足:カイ=03番、生存確認。ナナ=識別不能。交戦能力 高値推移》
壁面のスクリーンには、都市全域のマップが投影されている。 点滅する赤い光点。カイたちの現在地。
《因子干渉率、閾値超過。推定シナリオを再構成》
その存在――“観測者”は、ゆっくりとケーブルを外す。 立ち上がったその動きに、音も熱もない。
「予定より早いが……実に面白い」
モニターに向かって手をかざす。
《第零試作体、起動許可確認》
床下、厚い扉が音もなく開かれる。 冷却霧の中から、黒い装甲に覆われたヒト型の兵器が現れた。
“第零試作体(コード:ゼロ)”。
無感情なその存在は、命令を受けるとゆっくりと歩き出す。
「カイ、リン、ナナ。お前たちが“変数”として成立するのか──」
観測者は囁いた。
「この都市が証明してくれる」