第7章:目覚め
リンが目を覚ましたのは、それから半日後だった。
廃墟と化した通信室の隅。寝袋に包まれ、額に汗を浮かべながらも、彼女はかすかに目を開けた。
「……ここ、どこ……?」
震える声。すぐにナナが駆け寄って手を握る。
「大丈夫。あんた、ちゃんと助かったの」
「わたし……また閉じ込められてるのかと思った……」
ナナは首を横に振る。
「もうそんな場所じゃない。ここにはあたしたちがいる」
その言葉に、リンはゆっくりと目を閉じて、小さく息を吐いた。
カイは少し離れた場所で、彼女が握っていた金属片を見つめていた。
再び触れる。共鳴。
――白い部屋。監視装置。冷たい声。 『13番、適合率、上昇中』
リンは、かつて“実験体”として扱われていた。
「……あの子、俺と同じだ」
ナナがカイの隣に座る。
「見たの?」
「強制的に能力を引き出す……そんな施設の記憶。たぶん、リミッターズの実験計画の一部だ」
ナナが拳を握る。 「それを受け入れたっての? 子どもにそんなこと……っ」
「だからこそ、今は守る」
その時だった。
ズッ……と、金属が振動した。
リンが手を伸ばし、床の鉄片に触れる。
「やめて……誰かがまた傷つくの、いや……」
次の瞬間、彼女の周囲に銀の光が広がった。
金属片が浮遊し、円を描き、空間に輝く“刃”を構築していく。
「……能力が発動してる」
リンの目がかすかに銀色に染まりながら、金属と“つながって”いた。
鋼が呼応する。意志を持つように、彼女を守る形へと変わっていく。
「自覚なしでここまで……この子の能力、俺より強いかもしれない」
リンの能力が示したのは、圧倒的な“共鳴の素質”だった。
カイとナナは、目の前に広がる可能性に、確かな“希望”を感じていた。
そして――その希望が、後に再び試されることになるとは、まだ誰も知らなかった。