第6章:閉ざされた扉
目的地、避難区画A-7。かつて地下鉄の路線だった場所を改装して作られた、閉鎖型の生活空間。
だが、目の前の扉は無言のまま、閉ざされていた。
「中に人がいるなら、何か反応があってもいいはずだけど……」
ナナが扉のスピーカーに呼びかけるが、応答はない。 カイは静かに金属扉に触れた。
かすかに震える感覚。共鳴。
「……誰かが、ここで“閉じ込められた”まま、死んだ」
目を閉じる。
――パニック、悲鳴、血。
『もう、開けられない……お願い、誰か……守って……』
「カイ……?」
「開ける」
扉のロック機構を金属変形でバイパスしていく。
数秒後、電子ロックが“カチッ”と音を立てて解除された。
ゆっくりと扉が開く。
中から吹き出す空気に、わずかに腐敗の匂い。
「……っ」
中は無人のように見えた。 だが、隅に崩れるように倒れていた身体がひとつ。
少女だった。まだ小さく、痩せた身体。 けれど、その胸はわずかに上下していた。
「生きてる!」
駆け寄り、ナナが抱き起こす。
少女は手に、何かの金属片をしっかりと握っていた。
カイがそれに触れた瞬間、意識が引きずり込まれる。
――この子を、守って。
誰かの“最後の願い”がそこにあった。
ゆっくりと目を開いた少女が、微かに呟く。
「……リン……わたし……リン……」
カイとナナは顔を見合わせた。
「大丈夫。もうひとりじゃない」
その言葉に、リンは小さく、安心したように目を閉じた。
閉ざされていた扉の向こうに、確かに“想い”は残されていた。
そして今、それが新たな始まりとなる。