第51章:記録の外側で
戦場に、一時の静寂が訪れていた。
ユナが涙を拭い、再生を止めた記録装置をそっと胸元にしまう。 義肢の腕が微かに震えている。 けれど──もう、目は逸らしていなかった。
「……私、ずっと怖かった」
カイたちを見据えて、ユナが言った。
「記録を止めたら、自分の存在が崩れてしまうって。 でも……あなたたちを見てたら、わかったの。 過去を抱えていても、前に進めるんだって」
カイは静かに頷いた。 「お前が“今”を選んだから、俺たちは一緒に進める」
ユナが小さく笑った、その時。
「──感情の再構築を確認。精神安定度、向上」
無機質な音声が響いた。
クロウが、ユナを見据えたまま呟く。 「君の能力……ようやく“本来の仕様”に近づいたようだ」
「……どういうこと?」
リンが警戒を強める中、クロウは淡々と告げる。
「《リフレクション》は本来、 “他者の記録を再生する”だけの力ではない」
「それは……」
「“想いの層”を重ね合わせ、再構築する。 記憶と記録の境界を溶かす力── 君の心が安定したことで、ようやくその本質に到達した」
ユナの手が僅かに震える。
「つまり……私は、記録だけじゃなく、“誰かの記憶”そのものを……?」
「その通り」 クロウが歩み寄る。
「それこそが、君の《リフレクション》が持つ最大の価値。 だからこそ、僕は君を必要としていた」
カイが前に出る。
「もう、こいつは“お前の道具”じゃない」
「道具ではない」 クロウの声は淡々としていた。
「ただ、“選ばれた力”だっただけだ」
次の瞬間、クロウの周囲が歪む。 鋼の粒子が集まり、彼の背後に巨大な構造体が現れる。
「──君たちが“意志”を選ぶなら、僕は“記録”を完遂する」
再び、戦場が動き始めた。




