第5章:共鳴
異形の侵蝕体を倒した直後。 カイは倒れたその肉体から外れ落ちた金属片を拾い上げた。
手の中で、それはかすかに振動し、彼の指先を通して何かを伝えようとしていた。
目を閉じ、集中する。
――闇。銃声。閉ざされた扉。 『……お願い、誰か……止めて』
誰かの叫びが、記憶として響いてくる。
「……やっぱり、これは……」
カイは金属片を床に戻すと、制御室へと目を向けた。 ナナはすでに端末の前に座り、古い操作パネルを叩いていた。
「動いた。一部の通信ユニット、生きてる」
画面に映ったのは、“避難区画A-7”。そこに、かすかな生体反応があった。
「……生き残りがいる?」
「数は不明。でも、信号は本物」
一拍の間。
「行くぞ」
「わかってる。あたしたちが行かなきゃ、誰も来ない」
カイは金属片を再び手に取り、ポーチにしまう。
「……この声、無駄にしない」
制御室を後にして、ふたりは走り出す。
まだ誰かが生きている。 まだ、守れる命がある。
カイの能力は、ただ戦うためのものじゃない。 それは、“声なき想い”を拾い上げる力でもある。
――失われた声を、刃へと変えて。
鋼の記憶を背に、ふたりは再び闇の中へと踏み出した。