第49章:彼女は記録の中にいた
記憶の投影が静かに流れていた。
ユナの背後に浮かぶ無数の映像は、断片的な記録の集合体── それは、妹と過ごした日々の“再生”だった。
「ユナ……お前……」
カイの声に反応することなく、ユナは機械のように言葉を発した。
「記録の再生は、必要。 記録がなければ、私は“空白”になる」
「それでも……!」
ナナが前に出る。
「そんなものに囚われてるなら、あんたは──」
「囚われてなどいない」 ユナが淡々と返す。 「私は、記録を“守っている”。それは、私の生きる意味」
ゲンが低く呟いた。 「……自己同一性の維持。その記録に縋ってなきゃ、自分の形を保てねぇのか」
「ユナ」
カイが一歩、踏み出す。 槍を構えているが、構えは“戦うため”ではなかった。
「俺たちは、“過去”を消すことなんてしない。でも、“過去だけ”で進むこともしない」
「記録を否定してるんじゃない。そこに“囚われる”なって言ってるんだ」
ユナの視線がわずかに揺れる。
クロウが口を開く。 「彼女の能力は、不完全なままではその真価を発揮しない。 だが、“絶対の記録”に依存していれば、揺るがない精神を保てる」
「それって、“本当の自分”を……失っていってるんじゃないか?」
リンが静かに言った。
ユナは言葉を返さない。 だが、その視線が、記録の中の“妹”を見つめたまま、わずかに震えていた。
ナナが一歩近づく。 「もし……あたしが、誰かの記録にすがり続けるしかなかったら。 そんなの、つらくて、耐えられないよ……」
静かな時間が流れた。
ユナの唇が、震えるように、開いた。
「……私は、忘れたくなかった。 あの子の声も、笑顔も……焼かれて、消えていくのが怖かった」
その声に、かつての“少女”が宿っていた。




