第48章:反撃の記憶
鋼片から生まれた刃が、ゲンの手で唸りを上げた。
それは既知のデータにも、戦術記録にも存在しない── ただ“ゲンという個”の中にしかない、唯一の記憶。
「いくぞ、カイ!」
「ああ!」
二人の動きが交錯する。カイが前衛、ゲンが後衛。 交差するタイミングすら、即興の連携。
「──まだ学習されていない“未来”を叩き込め!」
クロウの前に再び戦場が動く。 壁がせり上がり、杭が飛び出す。 だが今度は、その動きに“既視感”がない。
「……反応できてない?」 ナナが驚く。
「ううん、ちがう……“初見”なんだ」 リンが息を呑む。「この瞬間だけは、私たちが“記録の上書き”を上回ってる!」
槍が火を纏い、ゲンの刃が交差する。
「《連閃・焔斬陣》──!」
ふたりの攻撃が、ついにクロウの前に割って入った。 仮面の端が、微かに欠ける。
「……なるほど。 個人の記憶……個の共鳴…… それは確かに、予測不能の一手となる」
クロウが静かに後退しながら言った。
「しかし、これで“全ての計算が崩れた”と思うのは早計だ」
彼の背後。 瓦礫の壁が、ゆっくりと開かれていく。 その奥から現れたのは──
義肢の少女。 静かな足音。 無数の記録映像を背に、彼女は歩いてきた。
「ユナ……」
ナナが名を呟く。
だが、ユナはカイたちを見ることなく、ただ真っ直ぐクロウの隣に立った。
「彼女の“記録”は、私の戦術に必要不可欠だ」
クロウが告げた。
「記憶の操作、視覚の再生、精神の撹乱── そして何より、彼女自身が“自分を喪失しないため”に記録を使っている」
カイは槍を握り直す。
「ユナ……お前、本当にそのままでいいのか」
その問いに、ユナは答えない。
ただ、映像の中に流れる“妹の最後”を見つめていた。




