第32章:撃たれた日
銃声。
もう何度も聞いたはずのその音が、今度はやけに生々しかった。
記憶が終わり、仲間たちも、レオの影もすでに消えたはずだった。
それでも、また聞こえたのだ。
ナナは立ち止まり、振り返った。
そこに──**もうひとりの“ナナ”**が立っていた。
「あんた……私?」
問いかけると、もうひとりのナナは静かに頷いた。
「そう。あの日、動けなかったナナ。
“止めようとして、でも声が届かなかった”ナナ」
「私は……もう、それを受け止めて前に進んだつもりだった」
「それでも、どこかで今でも思ってた。
“もしももっと強く叫べていたら”って。
“もっと自信があったら止められたかも”って」
ナナは言葉を失った。
たしかに、あの日の後悔は何度も自分を縛った。
でもそれを認めることすら、怖くて避けていた。
「……私は弱かった。怖かった。
あのとき、“正しい判断”を下すのが、できなかった」
「うん。でも、それでもいいんだと思う」
過去のナナが、ふっと微笑んだ。
「私たちは、あの場にいた。レオと、みんなと一緒に。
怖くても、泣いても、そこにいた。それで十分なんだよ」
ナナの目に、涙がにじむ。
「そっか……それで、いいんだよね」
「うん。だからもう──私のことは、赦してあげて」
その言葉とともに、過去のナナの姿が光に包まれていく。
「ありがとう、あの日の私」
ナナが目を閉じると、すべてが静かに消えていった。
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目を開けると、瓦礫の上空が広がっていた。
薄暗い空。冷たい空気。現実の感触。
「……ただいま」
ナナはぽつりと呟き、静かに立ち上がった。
過去に囚われた“背中”は、もうそこにはなかった。
「リン……カイ……」
彼女は歩き出す。
背中にあるのはもう、失った日々の重みではなく──
これから先を生きるという、確かな決意だった。




