第31章:遺された背中
光の中で、レオの姿が静かに消えていく。
ナナは手を伸ばすことはしなかった。
もう“失わせたくない”という衝動ではなく、
「前を向く」という自分の意思で、見送った。
静けさが戻る。
──けれど、その瞬間。
ナナの足元に、影が落ちた。
「まだ終わっちゃいないよ」
反射的に振り返る。
そこにいたのは、かつての仲間たち。
あの日の戦場で、レオと共に散った、あの時の面々。
全員が無言でナナを見つめていた。
その表情に怒りはない。
だが──どこか、寂しげで、問いかけるような眼差し。
「……どうして、まだ……」
その言葉に、仲間のひとりが口を開いた。
「俺たちは、置いてかれたままだ。
レオと違って、“お前に見送ってもらってない”からな」
ナナは息を呑む。
「え……」
「お前は、レオのことばかり背負って、
俺たちのことは“戦場の記録”にしたままじゃねぇか」
ナナの胸が、ズキリと痛む。
「そんなつもりじゃ……私は……!」
「分かってるよ。分かってるけど、
“気づいてない想い”は、そこに残り続けるもんなんだ」
一人ひとりの顔が浮かぶ。
命を賭けて共に戦った仲間たち。
確かに彼らも、あの日の地獄にいた。
「私は……自分のことばかりだった……」
「“誰かを失うのが怖い”って、
“自分が壊れるのが嫌だ”って、
結局、私も……全部背中向けてたんだ」
足元が崩れそうになる。
だが、誰かが手を差し出した。
それは、倒れた仲間たちではなく──
──レオの背中と、重なる自分自身。
過去のナナだった。
「だったら、向き直れよ。私」
「逃げずに、立って、歩くって、そう決めたんでしょ?」
ナナは震える手で、その手を取った。
その瞬間、視界が大きく開ける。
灰色だった戦場が、少しずつ色を取り戻す。
仲間たちが、静かに笑いながら背を向けて、歩き出した。
「ありがとう……」
ナナの瞳に、涙が浮かぶ。
「ようやく……ちゃんと、“見送れた”」
そして彼女は、背筋を伸ばして歩き出した。




