第30章:崩れた陣形
──冷たい風が吹き抜ける。
「おい、ここルート違うぞ!」
「後衛、ついてこい!」
「ナナ、右カバー入れて!」
叫び声。足音。銃声。
耳に馴染みすぎた、かつての“戦場の音”。
ナナはすでに知っていた。
この記憶は──“レオが死んだ日”の全記録。
でも今は違う。
これはただのリプレイじゃない。
ナナの視点で再構成された、“もう一つの戦場”。
「あの日、私は……確かに“気づいてた”。このルートが危ないって」
ナナは、自分の影を追うように、かつての自分の後ろを歩く。
そこには、まだ何も知らないナナがいた。
冷静に射線を読み、的確に仲間を援護する戦術支援のエース。
でも──
「“おかしい”と思った。だけど私は……」
「“レオは止まらない”って、分かってて、黙ってしまった」
前を行く、ひときわ大柄な背中。
仲間たちを率いる、頼もしさと危うさを持った男──レオ。
「ナナ、援護頼む!俺が突っ込む!」
彼は振り向きもせず走り出した。
「やめて……レオ、それは罠だって……!」
ナナの叫びは、あの日も今も届かない。
レオが踏み込む。
次の瞬間、爆音と共に罠が作動した。
銃弾の雨。閃光。崩れる瓦礫。
彼は、ナナの目の前で倒れた。
「っ……やっぱり……変えられないの……?」
ナナの足が止まる。胸が締めつけられる。
「私が“もっと強く言ってたら”、違ったのかもしれない。
“レオを止められる自信”が、なかった……!」
悔しさが胸を焦がす。
銃声が響き、記憶が繰り返される。
何度も、何度も、レオが倒れる。
「やめてよ……やめて……」
膝をついたそのときだった。
誰かの手が、肩に触れた。
──懐かしい匂い。懐かしい温もり。
「責めるわけ、ないだろ」
その声に、ナナの心が止まった。
顔を上げると、そこには──
「……なんで」
レオがいた。
穏やかな笑顔で、血もなく、あの日の姿とはまるで違う。
「俺はあのとき、自分の判断で動いた。
でもお前がいたから、怖くなかった」
ナナの目が、震える。
「でも……私、止められなかった……」
「そりゃあ、止まらなかっただろうな」
レオは照れくさそうに笑った。
「だけどさ──それを“悔やむだけ”なら、俺の死も無駄になるだろ」
ナナの拳が震える。
「だったら、お前がこれから“背中を見せろ”。
誰かを守る強さってのは、そこにあるんだよ」
その言葉が、ナナの心を貫いた。
記憶が光に包まれていく。
彼の背中が、遠くへ消えていく。
ナナは、立ち上がった。
「ありがとう、レオ……。次は、私が前に出る」




