第29章:残響の中で
銃声が鳴った。
目を開けたとき、ナナはすでに引き金を引いていた。
──いや、引いていたのは“記憶の中のナナ”だった。
「……うわ、懐かし。ここ……地下18区?」
周囲を見渡すと、見知った景色が広がっていた。
放棄された旧地下街。廃墟のような柱群。
それでもかつては、仲間たちと占拠していた拠点だった。
そしてすぐそばに──
「ナナ、援護頼む!俺が突っ込む!」
銃を持ち、走り出す男の背中。
そのシルエットに、ナナの心がざわついた。
「……レオ」
かつてのリーダー。
仲間であり、師匠であり、そして──恋人だった男。
今まさに、その背中が敵の砲火にさらされている。
「違う、やめて!それは罠だって……!」
叫んでも、届かない。
これは“過去の記録”。選択は、もう済んでいる。
レオは踏み込む。
そして──
「っ……!」
視界が爆ぜた。
銃弾の雨、飛び散る血、吹き飛ぶ身体。
彼は、ナナの目の前で崩れ落ちた。
「うそ……またこれ……!」
ナナは思わず腰を抜かす。
彼女にとってこれは、記録でも幻でもなかった。
ずっと胸に巣食い続けた、“自分が撃たせた後悔”。
「私が……私があの時、止めてれば……!」
記憶が巻き戻る。
何度も、何度も、レオが撃たれ続ける。
声が届かない。動きも変えられない。
永遠に続く地獄のようなリプレイ。
「やめろ……やめてよ……!」
彼女は、記憶の中で崩れ落ちたまま、何もできなかった。
そのときだった。
《適合者反応、特異干渉を確認》
《記憶領域:第一階層、再構成開始》
周囲が揺れ、世界が変質を始めた。
──これは、ただの追体験じゃない。
ナナの“意志”が反応し、記憶に歪みを与え始めていた。
ナナの目が、ゆっくりと見開かれる。
「これ……私の、記憶の中じゃない。
“心の中で終わらなかったあの日”が、まだ続いてる……」




