第28章:銀に染まる空
──静寂の中、リンは立っていた。
もう、白い廊下も、研究室も、モニターもない。
ただ、目の前に広がるのは、銀色に染まった空と、静かな風。
「……ここは、どこ?」
記憶の底ではない。
でも現実でもない。
“空白”と“再構成”の狭間にある、境界領域。
そこに、無数の金属片が浮いていた。
どれも微細で、なにひとつ名前のない破片たち。
──それは、彼女が封じてきた“記録の断片”。
ひとつずつに、誰かの声。
誰かの表情。
過去に見て、感じて、けれど言葉にできなかった想いが宿っていた。
リンは、静かに目を閉じた。
「私は……共鳴する」
その言葉とともに、金属片が揺れ始める。
「痛みも、恐怖も、悲しみも。
全部、私という“器”で受け止める。
だから私は──もう逃げない」
その瞬間、金属片たちが一斉に収束し、
リンの背後に巨大な輪を描いた。
それはまるで、“記録と記憶の輪”。
彼女の胸元から、光があふれる。
『《調律領域》
――アストラル・リング――』
輪が展開され、世界に共鳴を放つ。
この空間に存在するすべての“心”に干渉し、調和をもたらす力。
攻撃でも、防御でもない。
それは、“存在を肯定する力”だった。
「私は、誰かの痛みに触れても、もう壊れない。
だって、私の中には、リナがいるから」
そのとき、境界の空が崩れた。
記憶の空間が終わり、現実が戻ってくる。
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目を開けると、そこには瓦礫の上空が広がっていた。
ナナがリンに駆け寄ってくる。
「リン! 大丈夫!? 急に気絶して……!」
「……うん」
リンは微笑んだ。
今までよりも、ほんの少しだけ穏やかな顔で。
「少し……長い夢を見てた。でも、もう大丈夫」
ナナが息をつく。「よかった……私、リンの声を感じて……なんか、分かったんだ」
「うん、私も……ナナがいてくれてよかった」
リンは周囲を見渡す。
まだ、カイの姿はない。
「行こう。カイを迎えに行かなきゃ。まだ、終わってない」
共鳴の光が、彼女の背中で静かに揺れていた。




