第27章:呼びかける声
何もない空間。
すべてが灰に還ったような静寂。
リンは膝をついたまま、動けなかった。
熱も痛みもなく、ただ“空白”だけが残っている。
「やっぱり、私は……」
震えた声が漏れる。
「何もできなかった。守れなかった。……怖くて、逃げた」
言い訳のように吐き出しても、自分自身が許してくれない。
そのときだった。
「──でも、逃げたこと、責めてないよ」
どこかから、声が届いた。
それは、あの日と同じ。
それより少しだけ年を取ったような、柔らかくてあたたかい声。
「リ……ナ?」
ゆっくりと顔を上げる。
目の前に立っていたのは、記憶の中とは違う、
少しだけ成長した姿のリナだった。
「これ、あなたが覚えてた“私”の姿じゃない。
あなたが“見たかった私”の、イメージで作られたんだって」
「……どうして、そんなふうに……」
「お姉ちゃんが、ずっと私を思い出してくれてたから。
怖かったんでしょ? でも、それでもずっと、忘れなかったから」
リンの瞳に、涙がにじんだ。
「私は……ずっと、謝りたかった。助けられなくて……!」
「ううん、助けてくれたよ」
リナが微笑む。
「だって、お姉ちゃんがいたから、私は怖くなかった。
お姉ちゃんが泣いてくれたから、私は自分の存在が“ちゃんとそこにあった”って分かったの」
リンの心の奥に、何かが差し込んでくる。
冷たい空白が、少しずつ色を取り戻していくように。
「リナ……」
「私、まだ、前に進めるかな……?」
「進めるよ。だって、今のお姉ちゃんは、
“あのときの私”を、ちゃんと抱きしめられるでしょ?」
差し出された手。
リンは、ゆっくりとそれに触れる。
その瞬間、記憶の空間がふわりと光を帯びた。
「ありがとう。お姉ちゃん」
リナの声が、やさしく消えていく。
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視界が白く包まれていく中、リンは静かに立ち上がった。
自分の中にあった、触れてはいけないと思っていた扉。
でも、そこにいたのは、ずっと“彼女を愛した自分”だった。
「今度こそ、ちゃんと……前を見て歩ける」




