第26章:閉ざされた扉
白い世界が、灰色に染まり始めた。
リンの足元が揺れる。
見慣れた廊下は変質し、かつての記憶の風景へと変わっていく。
──研究区画B-05。
薄暗い照明。冷たい金属の床。
壁際には無数のモニターが並び、監視員の目がこちらを覗いている。
「ここは……あの日の……」
リンの心臓が締めつけられる。
「ねえ、お姉ちゃん。今日は何のテストかな?」
隣には、先ほどの妹が立っていた。無邪気な笑顔で。
「やめてよ……そんな声で、そんなふうに話さないで……」
リンは震える指で頭を抱える。
「私、知ってるんだから……このあと、あなたは……!」
だが、止められない。
目の前の記憶は再生され続ける。
《記録再生開始──被験体B-39「リナ」共鳴試験開始》
《安全領域確保。共鳴強度、安定中──》
《共鳴乱れ検出──臨界点突破》
監視音声と共に、警告ランプが赤く点滅する。
「痛い……! お姉ちゃん、これ、やだ……!」
リナの体が震え始める。
金属片が空中で暴走し、制御室のガラスにひびが入った。
「やめてぇぇぇ!!」
リンは叫び、扉に駆け寄ろうとする。
けれど、何かに阻まれて動けない。
「私、行けなかった……! 怖くて、止められなかった……!」
その瞬間、リナの身体が爆光に包まれた。
記録映像のようなノイズ。
その先にあるのは、ただ──
──静寂。
部屋には、何も残っていなかった。
「うそ……やだ……!リナ、お願い……!」
リンの足元が崩れ落ちる。
だが、それでも──
「……これが、私の記憶……」
自分の中にあった“最も触れたくなかった扉”が、今、完全に開かれてしまった。
リンの手が、震えながらも床を掴む。
「ここから逃げたくて、全部封じ込めた……
でも、それじゃ……あなたのことまで消えてしまう……」
炎ではなく、涙が彼女の頬を流れていた。




