第20章:崩れる境界
暗がりの中、カイはゆっくりと立ち上がった。
目の前には、確かに「家」があった。
けれどそれは、とうの昔に失われたはずの場所だった。
「……全部、記憶だってのか」
カイはそっと手を伸ばし、ドアに触れる。
冷たい感触――それは、現実と変わらなかった。
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一方、リンは白い廊下に立っていた。
かつて閉じ込められていた“研究棟の実験区画”。
そしてその先に――“彼女”がいた。
「……お姉ちゃん」
声は確かに、かつての妹のものだった。
振り返る少女は微笑み、何も知らない笑顔でリンを呼ぶ。
「一緒に帰ろ?」
その言葉が、心をえぐった。
リンは膝をつき、頭を抱える。
「やめて……やめてよ……そんなの、もう……っ」
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ナナは、砂埃舞う廃墟にいた。
倒れた仲間の体。血の匂い。銃声の残響。
「ナナ、下がって!」
その声は、もういないはずの彼だった。
仲間であり、恋人であり、最初に死んだ“リーダー”。
「……嘘でしょ、やめて……やめろってば……!」
ナナの手が震える。銃が握れない。
でも、その幻は動き続ける。
過去を繰り返すように、彼は再び撃たれる。
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同時刻、地上。
観測者はモニターを見つめながら呟いた。
「彼らが乗り越えるべきは、敵ではない。
それは“己自身が刻んだ記憶”」
モニターに映るカイの姿。
「だが──記録は改竄できる。
本当の記憶など、どこにも存在しないのだから」
その言葉と共に、記憶の世界は変質を始める。
過去が“ねじ曲がる”。
記憶が、別のものとして彼らを縛りはじめる。
現実と記憶の境界が曖昧になっていく。
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