第15章:侵食
風が吹き、霧がわずかに晴れていく。
3人はしばらく休息を取った後、観測兵が現れた地点を調べていた。
「地面、これ……焦げてる」
ナナがしゃがみ込み、指先で金属の残滓をつまむ。
「侵蝕体と同じだ。でも……何か違う」
カイがその金属に触れ、共鳴を試みた。
――意識のない動作。
ただの命令。感情はない。だが、根本的に“生きていない”とも言い切れない。
「これは……“侵蝕と制御の中間”……?」
カイは眉をひそめた。
その時、リンが急に立ち止まる。
「……この感じ、さっきのとは違う。どこかで……見た気がする」
視線の先、壁に触れた瞬間――金属の奥から、ぶわっと黒い“枝状の模様”が広がり始めた。
「離れろッ!」
カイがリンを引き寄せた直後、そこから“侵蝕体”が這い出してくる。
黒い液体のような質感、骨のように伸びた四肢、
そして、口のように開いた頭部の中心から、叫びのような音が鳴り響く。
「進化体……か!?」
「いや……これ、“共鳴型”だ」
カイは確信していた。
これは“誰かの記憶”を喰って、形を変えた侵蝕体。
「つまり、誰かが“あれに喰われた記憶”を残してるってこと……」
ナナが表情を曇らせる。
リンの声が震える。
「私……知ってる。この形……昔、施設で見た……!」
「リン、下がって」
「でも……!」
「信じろ、自分を。そして、今の“記憶”じゃなく、“今の意志”を」
カイの声に応え、リンは深く息を吸い、静かに手を広げた。
共鳴。
金属が集まり、彼女の周囲に光が差し込む。
だが今回は、刃ではない。
“灯火”。
淡く光る鋼の粒子が舞い、周囲を照らす光源となる。
「それ……攻撃じゃないのか?」
ナナが戸惑う。
「違う。これは“拒絶”だ」
鋼の灯火が侵蝕体の黒い外殻に触れた瞬間、
それは苦しむように震え、動きを止めた。
「記憶に支配されない“今の光”が、侵蝕の核に届いてる……!」
カイが再び槍を手にし、突撃する。
その刃が侵蝕体の“核心”に届いた瞬間、空間に鋭い金属音が響いた。
――破裂音。そして、沈黙。
3人は崩れた遺構の上に立ち、息を整える。
「見たな、今の……」
ナナが低くつぶやく。
「今の侵蝕体は、もはや自然発生じゃない。
“誰かが意図的に、記憶を使って造ってる”」
リンが小さく頷いた。
「つまり、次は……もっと“人に近い”のが来るかもしれない」
誰かの“心”が侵され、形を持って現れる。
それは、真に恐ろしいものの予兆だった。




