第10章:第零試作体
夕暮れの街、廃工場跡。
瓦礫に囲まれた空間に、静かに立つ人影。
カイは、何かを感じていた。 鋼がざわつく。空気が重い。直感が、警鐘を鳴らす。
「……来る」
ナナが銃を構え、リンが彼の背に身を寄せる。
そして――現れた。
ひとりの“人間”の姿をした存在。 黒く光る装甲。無機質なマスク。 機械の関節が軋みを上げ、歩を進める。
第零試作体――“ゼロ”。
「識別:カイ、ナナ、リン。任務:戦闘記録、限界測定」
無機質な声と共に、ゼロの両腕が変形する。 銃、剣、ワイヤー。複数の武装が同時展開されていく。
「……来るぞ!」
カイが床の鉄材を変形させ、即座に盾と槍を構築。 ナナが応戦しながら、リンを背後に下がらせる。
「リン、ここはあたしたちに任せて!」
ゼロが飛ぶ。
爆音と共にワイヤーが唸り、弾丸が空を裂いた。
カイが盾で弾き、槍で反撃。 だが、ゼロは機械の精度で攻撃を予測し、回避し、距離を詰めてくる。
一瞬の隙。
ナナの肩を銃弾がかすめた。 「……っ!」
「ナナ!」
「平気、まだ動ける!」
ゼロの刃が振り下ろされる。 カイが槍を立て、受け止める。 だが、衝撃が重すぎる。押し返され、膝をついた。
「こいつ、今までの比じゃない……っ」
そのとき――
リンが一歩、前に出た。
「やめて……やめてよ……っ!」
小さな手が金属に触れた瞬間、世界が震えた。
鋼が光り、空間に無数の“刃”が浮かび上がる。 それは誰かを守ろうとした記憶の残響。
「これ以上、誰も傷つけたくない……!」
解き放たれた鋼の嵐。 槍が、剣が、盾が、空中を駆け、ゼロを包囲する。
ゼロが装甲で弾くが、ひとつ、またひとつと攻撃が裂け目を刻む。
「カイ! 今だ!」
「……ああ!」
カイがリンの共鳴を借りて、手に巨大な刃を構築する。
記憶を束ねた一振り――“集束記憶槍”。
全力で踏み込み、ゼロの胸部に渾身の一撃を叩き込む。
鋼が裂け、装甲が砕け、ゼロの動きが止まった。
火花。沈黙。
やがてゼロは、静かに崩れ落ちた。
「……任務、完了……記録……送信……」
その最後の言葉を残し、試作体は動かなくなった。
カイは肩で息をしながら、槍を地に突き立てる。 ナナがリンのそばに駆け寄り、彼女を抱きしめた。
「……もう、大丈夫だから」
終わった。
だが、その奥で――観測者は、静かに次の動きを始めていた。




