第1話:瓦礫の街と声なき刃
かつて賑わっていた商業地区の一角。
崩れた建物の中、ひとりの少年が静かに佇んでいた。
カイ――十六歳。
痩せぎすな体に金属製の装具を巻きつけたその姿は、瓦礫の中でも異彩を放つ。
彼が装着しているのは、能力を制御するための“触媒”。
それは彼の“武器”であり、“記憶”を読み解くための窓でもあった。
「……また、遅れたな」
呟きながら、彼は床に転がるサバイバルナイフに手を伸ばす。
その瞬間――ナイフがかすかに震えた。
頭の奥に、微かな“音”が響く。
キィィィィン……
刃を通じて流れ込んでくる“記憶”。
――父親の形見として少年に託された刃。
――「これで、お前は守れるさ」
――返り血を浴びながらも、少年は家族を守るために戦った。
「……お前の想い、確かに受け取った」
カイの手の中でナイフが変形を始める。
まるで鋼が生きているかのように、細く長く伸び、鋭利なスピアへと姿を変えていく。
「次は……“あいつら”を斬るために使ってやるよ」
彼の視線の先――黒く歪んだ影が這っていた。
それは、この世界を壊した存在、《侵蝕体》。
スピアを手に、カイは静かに一歩を踏み出す。
鋼の記憶を背負い、新たな戦いへと向かって――。