54. パジャマパーティーと夜の秘密 前編
パーティーはライカ亭の4人部屋を借りて行うことになった。
このあたりは土足文化なので部屋の中でも靴を履くのが普通だけど、今回ばかりはパジャマパーティーなので、特別に大きな敷物を用意してその上で寝ることもできるようにした。
着替えを終えたところで、敷物の上で車座になって座っている参加者に向けて私から挨拶をする。
「今夜はパジャマパーティーにお集まりいただきまして、ありがとうございます」
「一応こうして来てみたけど、結局パジャマパーティーってなんなの?」
質問を投げかけてきたのはロゼッタだ。ライカ亭への帰り際に声をかけたら来てくれた。
パジャマはシンプルなワンピースタイプで、かわいいけど意外と普通。
「特に決まりはありませんよ。みんなで集まって寝る前におかしを食べたりお話をしたりするお泊まり会です。それはそうと、ロゼッタさんがメイド服じゃないと違和感がありますね」
「寝るときまでメイド服なわけないでしょ!」
「寝るまえにおかし食べていいの!?」
おかしという言葉に反応したのはリルカ。楽しそう、と参加してくれた。
パジャマはロゼッタと同じくワンピースタイプのものを着ている。
「はい。いろいろ用意しましたから。でも食べたらちゃんと歯を磨きましょうね」
「はーい」
「え、また歯磨きするの? 面倒くさくない?」
素直に返事をしたリルカとは反対に、嫌そうな顔をしたのはクリスだった。パジャマは上下のわかれたタイプ。長袖長ズボンで、だぼっとした見た目がかわいい。ちなみに私もクリスに聞いて買ったので、同じようなものを着ている。
ロゼッタがクリスに言う。
「ちゃんと磨かないと虫歯になるよ?」
「平気よ。わたし、虫歯なんてなったことないもの」
「口臭の原因にもなるし、磨いたほうがいいと思うけどなあ」
「べつに臭くないし。……臭くないわよね……?」
一方、このパジャマパーティーを開くきっかけとなったキリオンはというと、すみっこで縮こまって押し黙っているのだった。
キリオンのパジャマは真っ黒なローブ。……ん? いつもと見た目が変わらないような。
「っていうかさ、キリオンさんのそれっていつも着てるやつだよね。寝るときくらい着替えないの?」
ロゼッタが突っ込みをいれると、キリオンがぴんと背筋をのばした。
「え……あ、き、着替えた、よ。あの、これは、寝るとき用で……」
「なにか違うんですか?」
「そ……外で着ると、汚れるから、使い分けを……」
「あ、ああ……。同じのを何着も持ってるってことね」
用意したお菓子をみんなの真ん中にならべていく。
クッキーなどのつまめるものに、アップルパイ。パン屋さんで焼きたてのものが売っていたので買ってみた。
「夜に食べるおかしって、美味しいんだけど太りそうで怖いなあ。っていうか、アップルパイは重すぎない……?」
「そういうロゼッタさんだって、ケーキを持ってきたじゃないですか」
「これは新しく作った試作品でね。みんなに試食してもらおうと思って持ってきたの。最近ケーキ食べすぎてちょっとまずいんだよね……」
ケーキをたくさん食べられるのにまずいってどういうことだろう。
アップルパイを切り分けながら、ロゼッタに聞いた。
「まずいって、なにがまずいんですか?」
「いや、最近体重が……」
「ああ、太ったってことね。確かに冒険者やってるときと比べると、あんた丸くなったわよね」
クリスがばっさりと言った。
「クリス……あんた、人が気にしてることをずばずばと……」
「ロゼッタさんは太ってるようには見えませんけど……あいたっ」
よそ見をしていたら、ナイフで指を切ってしまった。
クリスが心配してそばに来る。
「大丈夫? シホ」
「ええ、ちょっと切っただけですから」
「一応洗ってきたら? あ、パイ切るの代わるよ」
「ありがとうございます」
幸い傷は浅く、軽く洗っただけですぐに血は止まった。
部屋に戻るとロゼッタがパイをお皿に取り分けてくれた。
「あたしは半分でいいや……。リルカちゃん食べる?」
「いいの? ありがと!」
「最近メイド服がきつくなってきたから、ほんとそろそろ気をつけないと……」
ロゼッタがお腹をさすった。
ケーキをぱくつきながらクリスが言う。
「ふーん。変わった悩みね。わたし太ったことないからわかんないわ」
「くっ、三ツ星冒険者さまは体質も特別だって言いたいわけ!? 女の子なら普通でしょ。……でもキリオンさんはなさそうだよね。めっちゃ痩せてるし。リルカちゃんは気にするような歳じゃないしなあ。あたしの悩みをわかってくれるのはシホさんだけかあ。ってか、シホさんってスタイルいいけど、どうやって体型維持してるの? 食事制限とかダイエットとか? 結構大変だよねー」
え、私……?
もぐもぐしていたアップルパイを飲み込んで質問に答える。
「……いえ、私は特に考えたことないですね」
「シホはわたしより大食いだけど、ぜんぜん体型変わんないわよ」
「そんなっ!? ずるい! 裏切り者っ!」
「ええ……」
なにも悪いことはしてないのに。
困惑しながらロゼッタの持ってきたケーキを手に取ると、ふわりと独特な香りがした。
この香りって。
「あれ……? これ、お酒入ってませんか?」
「ハチミツ酒漬けのケーキだから、そりゃ入ってるよ」
「リルカさんも居るんですから、お酒はよくないのでは……」
リルカがケーキを食べながら私を見上げた。
「リルカおさけのめるよ?」
「えっ、でも……いいんですか?」
「大丈夫大丈夫。リルカちゃんってハーフでしょ? 獣人の血が入ってるとお酒には強くなるからねー。ちなみに、あたしもハーフ」
「ロゼッタさん、このケーキ美味しいねっ。リルカ好き!」
リルカがロゼッタを見上げて無邪気に笑う。
「え~、本当~!? うれしいな~。ありがとう! あたしもリルカちゃん大好き~!」
へー、獣人ってお酒強いんだ。
あれ? そういえばさっきクリスもこのケーキ食べてなかったっけ……。
隣を見ると、クリスの目がとろんとしていた。
「ああ、やっぱり。クリスはお酒に弱いんですよね……」
「なによ、べつにおさけくらいなんでもないわよ……」
クリスは強がりながら、へにゃへにゃと私の肩にもたれかかってきた。
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