53. その後
あの薬の中身がただの砂糖水……?
私はキリオンの持ってきた瓶に視線を送った。
「ああ、ちょうどこんな形の瓶です。これに砂糖水を詰めて1本100リムで売り付けていたんですからね。って……あれ? どうしてこの瓶がここにあるんです?」
エミリーが不思議そうに首をかしげて、懐から瓶をひとつ取り出した。
瓶の形は全く同じだ。
「それは……キリちゃんが持ってきたものなんです……」
「こっ、これは違うよ! 砂糖水なんかじゃないもん! だって、ちゃんと効果があるんだから!」
椅子から立ち上がって言い張るキリオンだけど、少し顔色が悪い。
エミリーがキリオンに尋ねる。
「この薬、中身を確かめてもよろしいでしょうか」
「い、いいけど……絶対、これは違うから……! これは本物だよ……!」
キリオンは凍えているみたいに両腕で自分の体を抱いていた。
瓶を手に取ったエミリーが蓋をあける。においを嗅いでみたり、手の甲に垂らしたりして確認し、最後にその水滴をぺろっとなめてみせた。
「やはり、ただの砂糖水ですね」
「う、うそだあっ!?」
キリオンの叫ぶ声が店の外にまで響き渡った。
結局、薬の効き目なんていうものはもともとなかったのだ。
キリオンは、なんの効果もない砂糖水を精神向上の効果があると信じ込むことで元気になっていただけだった。
それを聞いて、私は少しほっとしていた。中毒性があるような危ない薬じゃないとわかったから。
でも当のキリオンは精神的なショックが大きかったみたいだ。
すっかりしょげかえってしまい、ぎらぎらと輝くようだった目の光もすっかり消えていた。歩く気力すらわかないようだった。
体を支えるようにして家まで送っていくと、部屋の入り口には薬瓶がぎっしりと詰め込まれた木箱が置いてあった。
キリオンはそれを見て、膝から崩れ落ちた。
エミリーの話では、犯人は捕まったけど被害者にお金が戻ってくるかはまだわからないという。
「キリオンさんの場合は被害の証拠物品が手つかずのまま残っていましたから、まだ望みはあるかと。お金が取り戻せるよう上にかけあってみます。ただ……あまり期待はできないでしょうね」
「そうですか……」
返事をしながらキリオンをちらっと見ると、床で膝を抱えたまま身じろぎひとつしなかった。
エミリーは部屋にあった薬瓶を木箱に詰めて全て回収していった。
その間、キリオンは受け答えこそしていたもののどこか上の空で、エミリーが行ってしまうと、座ったままボーっと一点を見つめて動かなくなった。
さすがに、この状態のキリオンを部屋に一人残して帰るわけにはいかない……。
そうだ。
「キリちゃん、よかったら今日はライカ亭に泊まりませんか?」
「え……?」
「嫌なことはひとまず忘れて、みんなでパジャマパーティーをしましょう」
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