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ひよわな私の異世界ぐらし  作者: ささみし
ひよわな私と秘密の話
52/75

52. おかしなキリオン

 キリオンがおかしい。

 私はキリオンを席に案内しながら、いつもと違うところを間違い探しみたいに観察した。

 いつも猫背だった背筋は、ぴんと延びている。表情も明るいし、目が合ってもごまかすように伏せるようなこともない。


「あっ、ライラさん! 今日のおすすめ料理はなんですか?」

「え? ええと、今日のおすすめは――」

「じゃあそれをください! わあ、楽しみだなあ!」


 いつもだったら、まず自分から人に話しかけるようなことはしないはず。

 しかも、妙にテンションが高いというか、しゃべり方がやたらとハキハキしている。

 ……なんか無理しているようにも見えるけど。


 ライラが私に手招きをした。


「ちょっと、シホちゃん。あの子、あのキリオンちゃんよね? どうしたのかしら。前会ったときと全然違うみたいだけど」

「それが、私にもさっぱりで……」


 ライラとこそこそしゃべっていると、キリオンが私を呼んだ。


「ねえシホちゃん、今度またお出かけしよう! クリスさんとロゼッタさんも誘ってみんなで一緒に!」

「え、ええ……いいですね。楽しそうです」

「えへへ、そう思う!? 楽しみだなあー!」

 

 どう考えても様子がおかしい。いったい、何があったんだろう。

 

「……キリちゃん、最近なにか変なものでも食べましたか?」

「え? なあにシホちゃん、変なこと言って~」


 肩を軽くこづかれた。

 

「ん~、ほんとは秘密なんだけど。シホちゃんにだけ教えてあげる!」


 そう言ったキリオンが、ローブの中から小さな瓶を取り出して掲げてみせた。

 あれ?

 この瓶、どこかで見覚えがあるような……。

 

「これ、親切なお姉さんに売ってもらったんだ! 飲むと不安な気持ちがなくなって、すごく元気が出るんだよ!」

「へ、へえ~……」


 危なそう……。

 というか、間違いない。私が路地で怪しいお姉さんに売り付けられそうになった瓶だ。


「ちょっと高いけど、お金を出す価値はあるね!」


 キリオンがうなずきながら、自慢げな顔を私に見せる。

 なんだか嫌な予感がした。キリオンはこれを一体いくらで買ったんだろう。


「高いって、これ、いくらで買ったんですか?」

「それがね、すごいんだよ! 1本ただで飲ませてくれたの!」

「えっ、ただで?」


 私のときは10リムって言ってたけど、キリオンのときはタダ?

 どういうことだろう。


「効果がなかったらお金は取らない、そのかわりこの場で飲んでって。ね、良心的でしょ! それで飲んでみたら、なんか、体の中から元気が出てくる気がして」

「そ、そうなんですかー」


 変な薬なのかと思ってたけど、これはもしかして……騙されているのでは?

 気のせいって自分で言っちゃったし。


「そのお姉さんがすごく親切な人でねっ。うちまで薬を届けてくれたんだよ!」

「えっ、家に案内したんですか?」


 あの怪しい人を!?

 

「う、うん。あの、お金持ってなかったから家まで取りに行って……。で、でも大丈夫だよ! ちゃんとお金は払ったから」


 その心配はしてない。というか、住所バレてるってことだよね?

 絶句している私に、キリオンがさらに追撃を加えてきた。


「それでね、毎日飲むと効果が定着するって言うからたくさん買っちゃった」

「毎日って……何本買ったんですか?」


 怖くなってきた。

 

「えーと、たくさん? 本当は1人1本しかだめなんだけど、困ってる人には特別って。いい人だよね。あと、たくさん買ったから割引なんだって安くしてくれたの! えへへ。すごく得しちゃった!」


 1人1本しか売らないのに沢山買ったら割引って、めちゃめちゃ適当なこと言って売りつけられてない!?

 1本100リムの瓶を、キリオンはどれだけ買ったんだろう。


「よく、そんなお金がありましたね……」

「うん、飛竜の討伐報酬があったから本当によかったよ! 使い切っちゃったけど……でも、こんなにいいものを買うことができたんだもんね!」


 心底嬉しそうに言っている。

 どうしよう……。やっぱり騙されてるよね……?

 っていうか、その薬も。本当に飲んで大丈夫なものなんだろうか。


「え、ええ……でも、その薬、体に害はなんですか? 危ないお薬だったりしませんか?」

「心配性だなあシホちゃんは。大丈夫だよ。植物由来の、おーがにっく……な成分? でできてるし、えっと、なんとかっていう成分が体にすごく良いんだって! シホちゃんも一本ためしてみない?」


 すごい受け売り感……。

 私は差し出された薬を、そっと脇によけた。


「あの、植物にだって毒はありますし、自然から採れたものだから体に良いって言うことはないと思うんです。キリちゃん、その人、本当に信用できる人ですか?」

「だ……大丈夫だよ! だって、こんなに気分がいいんだもん! なんでシホちゃん、そんなこと言うの……?」


 キリオンはむきになって言い返し、悲しそうな顔をした。

 少し言い方がきつかったかもしれない。

 でも、友だちが大金を騙し取られたかもしれないのに、このまま放っておくわけにはいかない。


「言い過ぎました。すみません。でも私、キリちゃんが心配なんです。今度一緒にお薬を売った人に会いに行ってもいいですか? 会って話してみて、ちゃんとした人だったら私も安心できますから」

「う、うん……いいけど……」


 キリオンは渋々といった表情でうなずいてみせた。

 そのときはクリスとエミリーを連れて行こう……!

 

「あっ、エミリーさん。いらっしゃい」

「こんにちは、リルカさん」


 すごいタイミングでエミリーがやってきた。

 でも丁度いい。エミリーからもキリオンを説得してもらわなくちゃ。

 そう思っていたら、エミリーはまっすぐ私のほうに歩いてきて嬉しそうに言った。


「シホさん、いい知らせですよ。昨日の怪しい薬売りを捕まえたんです」

「えっ!? 昨日のって、路地でエミリーさんに会ったときの女の人のことですか?」

「ええ。まったく悪いやつですよ。高いお金をふっかけておいて、中身はなんと、ただの砂糖水だったんですから!」

「ええっ!」

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