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ひよわな私の異世界ぐらし  作者: ささみし
ひよわな私と秘密の話
51/75

51. 怪しい女と秘密の薬

 私は貸本屋への道を急いでいた。

 

「早くしないとお店が閉まってしまいます」


 もうすぐ日が暮れる。いつものように大通りを行っては間に合わないかもしれない。

 そういえば。以前リルカとおさんぽをしたとき、路地を抜ける道を通ったことを思い出した。あの道ならずっと早く着く。

 一人のときは行かないようにって言われたけど……ちょっとくらい大丈夫だよね。

 

 私は薄暗い曲がり角へ足を踏み入れた。

 

 路地には人の気配がなかった。道幅は両手を伸ばしたらくっついてしまうような狭さで、日当たりが悪く、じめっとした空気が漂っている。

 時間帯以上に暗く感じる。もっと早い時間に来ればよかったなあ。少し後悔しながら歩いていると、丁字路の角でいきなり声をかけられた。

 

「ちょっと、そこのおねーさん」


 人がいるとは思っていなかったので、びっくりして立ち止まる。

 

「こっちこっち」


 曲がり角の向こうに大人のお姉さんが立っていた。歳は20代後半くらい。顔に見覚えはない。

 胸を強調するような服を着ていて、思わず目が吸い寄せられる。ライラと同じくらいありそう。いや、ライラのほうが大きいかな……。

 

「えっと、私ですか?」

「そそ。おねーさん疲れてない?」

「はあ、まあそうですね」


 確かに、ここまで早足で歩いてきたので少し疲れてはいる。

 私がうなずくと、お姉さんは手のひらサイズの小瓶を取り出した。


「アタシ良い薬持ってるんだ。これを飲むとね、疲れが取れて元気になるんだよ」


 …………。

 なんかあからさまに怪しい。あまり関わり合いになりたくないかも。

 それに、急がないと本屋さんが閉店してしまう。

 

「いえ、あの、間に合っていますので……」

「まあまあ! 話だけでも聞いていってよ」


 断って行こうとしたら先回りされて道を塞がれた。

 

「すみません、急いでいるんです」

「怪しいもんじゃないからさ。とりあえず一本だけでも。値引きするから」

「け、結構です」

「大丈夫だから。ね? 一本100リムのところを今回は特別に10リムでいいからさあ」


 なにが大丈夫なのかわからない。一本100リムって。私の3日分のお給料が飛んでしまう。

 それに、いくらなんでも値引きしすぎだし。そこまで安くなると、お得感よりも怪しさが先に立つ。

 あー、なんだか変な人に絡まれちゃったなあ。こんなことなら少しくらい遠回りでも大通りを行けばよかった。


「いや、マジで人助けだと思って一本買ってくれないかなあ。ねえ、お金持ってるでしょ? 10リムくらいあるでしょ?」


 あるけども。


「こ、困ります……」


 壁に押し込まれて、腕で逃げ道をふさがれる。

 助けを待っても誰も通りそうにない。やっぱりリルカの言う通り、一人で来ちゃいけなかったんだ……。

 いまさら悔やんでも仕方ない。勉強代だと思って10リム払ってしまおう。

 

「……わかりました。一つだけなら」

「よかった。うん。ほんとおねーさんツイてるよ」


 どの口が言うんだろう……。まあ強盗に会うよりはマシだと思えば。

 そんなことを考えながら財布を出そうとしたとき、咎めるような声が響いた。


「こらー! そこの人、何をしているんですか!」

「ちっ、あとちょっとだったのに!」


 怪しいお姉さんは悪態をついて逃げ出した。

 逃げ足はとても速く、声の主が駆けつけたときにはもう姿が見えなくなっていた。

 

「やれやれ、逃げられてしまいましたか。そこのあなた、大丈夫でしたか?」

「あ、はい。ありがとうございます。……って、あなたはエミリーさん?」

 

 私を助けてくれたのは、冒険者ギルドのエミリーだった。

 思わぬところで出くわして、エミリーも目を丸くしている。

 

「え? ああ、誰かと思えばシホさんではないですか。こんな時間に路地を歩くのはやめておいたほうがいいですよ。ときどき今みたいな連中がいますからね」

「そうですね、気を付けます。でも、エミリーさんはどうしてこんなところに?」

「なに、ちょっとした見回りです」

「冒険者ギルドの職員って、そんなお仕事もするんですか」


 ギルド内の仕事だけでなく町の治安維持まで請け負っているのか。大変だなあ、と思っていたら、エミリーが首を横に振った。

 

「いえ、仕事ではありません。いまは仕事明けで、私的な時間です」

「え、じゃあ……趣味でこんなことを?」

「趣味と言われると返答に困りますが、広い意味ではそうかもしれませんね。私、この町が好きなんです。行き場のない私を受け入れてくれたこの町が……。あれは、そう。私がまだ18歳のときのことでした。あのときの私は怖いもの知らずで――」

「……あの、その話長くなります? 私、閉店までに貸本屋さんに行きたいんですけど」

「ああ、そうですか。でしたらそこまで送りますよ。そうそう、当時私が所属していた騎士団の上役がとんでもない人で――」


 ともあれ、今回はエミリーがいてくれて助かった。次からは遠回りでも大通りを歩くことにしよう。そう心に決めて貸本屋の前でエミリーと別れたのだった。

 


 次の日、私は仕事の合間に昨日のことをリルカに話していた。

 

「――ということがありまして」

「へ~。エミリーさんってやっぱりすてき」


 リルカは目を輝かせている。

 素敵かな……。


「ええ、まあ……頼りになる人なのは間違いないですね」


 リルカの中で、エミリーの株がまたひとつ上がったようだった。

 そんな話をしていたら、お客さんがやってきた。


「いらっしゃいませ。って……キリちゃん?」


 食堂に入ってきたお客さんはキリオンだった。いや、キリオンに間違いないはずなんだけど、どこか雰囲気が違って見える。


「おはよう、シホちゃん! リルカちゃんもこんにちは!」

「誰……」

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