49. 生誕祭の秘密
「――ということがありまして、クリスがずっと口を聞いてくれないんです」
私は、ライラとリルカ、そしてたまたまお店に来ていたロゼッタに、昨夜から継続中のクリスとのケンカ(?)についての話をしていた。
一人で考えても思い当たることはないし、クリスは何も教えてくれない。困り果てて、身近な人に相談したのだった。
私の話を黙って聞いていたライラが眉を寄せた。
「シホちゃんが悪いわ」
「シホさんが悪いよ」
「シホさんが悪いと思う」
三者三様、ではなく全員一致で3人の声がそろった。
そんなに私が悪いの!?
「な、なんでですか!?」
私が意義を唱えると、ロゼッタがテーブルの上で腕組みをしてため息をついた。
「なんでって、めちゃめちゃ期待してたんじゃん。シホさんからのプレゼント。慣れないおめかしまでして、相当浮かれてたんだろうね。それで結局なんにもないってわかったら……うん……」
「クリスちゃん、ショックだったでしょうね……」
ライラがため息をついた。
「クリスさん、かわいそう……」
リルカまで。
「あ、あの、生誕祭にプレゼントを渡さないって、そんなにひどいことなんですか……?」
恐る恐る聞いてみると、ロゼッタが大きくうなずいた。
「当たり前でしょ。今回ばかりはあたしもクリスに同情するなあ。あたしはまあ……そういうの居ないからあれだけど、恋人同士でプレゼントがなかったら、別れてくださいって言われたようなもんでしょ」
「恋人って……。私とクリスはそういう関係ではないんですけど」
「え? そうなの? 付き合ってるんだと思ってた」
「違いますよ?」
私が否定すると、なぜかライラが目を丸くした。
「えっ、まだクリスちゃんとお付き合いしてなかったの? でも、毎日一緒に寝てるのよね……?」
「はあ?」
ロゼッタが、信じられない、と言いたげな顔で私を見た。
「あ、あんたたち、付き合ってもいないのにそんなことしてるの!?」
「そんなことって……寝てるだけですよ?」
ロゼッタが机に突っ伏した。
「わ、若者の性の乱れ……!!」
「せ、性……? というか、ロゼッタさんだって若いですよね? 同じくらいですよね?」
「あなたたちと一緒にしないで。あたしはそういうことはちゃんとお付き合いしてからしたい派だから!」
「なにか誤解してませんか……? 私とクリスは本当に一緒に寝起きしてるだけなんです」
「え……? えっちなことしてるんじゃないの?」
「してません」
「○○○も!?」
「○○○……?」
「△△△△の××××は!?」
聞き覚えのない言葉が矢継ぎ早に出てくる。
「△△△△? なんですかそれ……?」
「おかーさん、○○○ってなあに?」
ロゼッタが、しまったという顔をして口をつぐんだ。一瞬の静寂が訪れる。
ライラがにっこりと笑ってリルカを諭した。
「あらあらリルカ、そんな言葉使っちゃだめよ。あっちでおかーさんと一緒にお料理しようね」
「えー、リルカ、もっとロゼッタさんのお話ききたいのに」
「だめよリルカ。わからないことがあったらおかーさんが教えたげるから。こっちにいらっしゃい」
「はーい」
二人の背中を見送ってから、ロゼッタが咳払いをした。
「とりあえず、いまの話は置いとくとして――」
「あの、○○○というのは……」
「それはあとでクリスにでも聞いて! 話を戻すけど、つまりシホさんは生誕祭にプレゼントを贈るって知らなかったわけだ。それならそうと正直にクリスに言えばいいんじゃない?」
「そうですね。いまからクリスに会って話してみます」
じゃあさっそく、と腰を浮かせたところでロゼッタに引き止められた。
「あ、待って。やっぱりあたしから話してみる。いまシホさんが言い訳したってクリスも気持ちが収まんないだろうし。それよりシホさんはその間になんかプレゼント買ってきなよ」
私はロゼッタにお礼を言って町へ出た。
「プレゼント……。なにをあげたらいいんでしょうか」
あんまり悩んでいる時間はない。
私ならケーキとかお肉とか、食べ物をもらえば嬉しいけど、たぶん、いまはそういうものは求められていない気がする。
クリスにもらったものが髪止めだったことを考えると、やっぱり身に付けるものがいいのかな。
そんなことを考えながら、私は以前見かけたアクセサリーショップに足を向けた。
「うーん」
棚に並ぶ商品を眺めながら私は悩んだ。
首飾りに、指輪、耳飾り……
クリスはどういうものを渡したら喜ぶんだろう。
私がもらった髪止めは普段使いのできるデザインで、毎日使えるものだった。
実用性もあるし可愛いし、クリスは贈り物のセンスがあるなあ。
華美なものはイメージじゃないし、簡素すぎるのも……。
そもそもこういうの着けたら邪魔じゃない?
だからと言って実用的もの、髪留め?
貰ったものと同じようなのをあげるのってどうなの……?
うー、全然わからない。
私が悩んでいるのを見かねたのか、店員さんが話しかけてきた。
「なにかお探しですか?」
「いえ、買うものは決めていないんです。……一緒に暮らしている女の子と少し喧嘩をしてしまって。私が悪いんですけど」
「あら、もしかして、生誕祭のプレゼントのことで?」
店員さんがずばり言い当ててきた。
「えっ、どうしてわかったんですか?」
「うふふ、時期が時期ですから。そういうお客様は多いんですよ」
「そうなんですか」
なんだ。私だけじゃないんだ。あんまり責められるから、こんな酷いことをしたのは世界で私だけなのかと思った。
いや、でもその言葉に甘えちゃ駄目だよね!
クリスを傷つけちゃったのは事実なわけだし……。
「お悩みでしたら、わたくしのほうでいくつかお選びいたしましょうか?」
「そうですね……」
プレゼント選びに慣れた店員さんのチョイスなら、クリスの気に入るものを渡せるかもしれない。でも――
「やっぱり自分で選んでみようと思います」
それが正解じゃなかったとしても、クリスには自分で選んだものを渡したい。
あ、でも。
「私が変なものを買おうとしていたら教えてもらえませんか? こういうものには疎くって……」
このくらいの保険はかけてもいいよね。
店員さんは笑顔で言った。
「ええ。任せてください。そんなに真面目に悩んでもらえて、彼女さんは幸せですね。羨ましいなあ……」
彼女……ではないんだけど。
「決めました。これにします」
私が選んだものを持っていくと、店員さんはぱあっと笑顔になった。
「どう思います?」
「仲直りのプレゼントですよね……! ええ! とっても素敵だと思います!」
「本当ですか? よかったです。店員さんにそう言っていただけてほっとしました」
お会計を済ませて、私は可愛くラッピングされたプレゼントを手に入れた。
お店を出ようとした私に店員さんが後ろから声をかけた。
「うまくいくといいですね。応援してます!」
「はい。ありがとうございます」
そして私はライカ亭へ向かった。
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