19. 人見知りの魔法使い 後編
今日のまかないはウロコドリのチキンライスだ。昨日クリスが獲ってきたお肉がふんだんに使われている。
とっても美味しい。
私は前の席に座っているキリオンに話しかけた。
「美味しいっ。私、ここのご飯大好きなんです。ご飯目当てで働いてるみたいなものですね。キリオンさんとはギルドでお会いしましたけど、やっぱり冒険者をなさってるんですか?」
「…………うん」
私の問いにキリオンが首肯する。
そうだろうなとは思っていたものの、キリオンは私よりも痩せていて、戦うための筋肉が付いているようには見えない。
戦士って感じじゃないよね。
「あ、もしかして魔法使いさん?」
「……う、うん……」
クリスが魔力を使って戦うのは見たことがあるけど、魔法というのはまた少し違うらしい。
魔力を直接的な戦力とする魔法使いは生まれ持った才能が実力を左右するので、なり手が少ないのだという。
「キリオンさんはどんな魔法を使うんですか? あ、すみません、教えられないことだったら全然、答えなくていいんですけど」
つい興味がわいて聞いてしまったけど、冒険者にとって失礼な質問じゃなかっただろうか。
キリオンは、恥じらうように目を伏せて言った。
「………………じ、地味、だから……」
地味と言われても、魔法を見たことがないので基準がわからない。
「あ、ええと、魔法を使うときって、やっぱり杖とか使うんでしょうか」
私の魔法使いのイメージ、杖と帽子。
キリオンは帽子を被っていないけど。
「う、うん。……あの……こっ、これ」
キリオンはローブの内側をごそごそと探り、ローブの色と同じく真っ黒な色をした腕の長さほどもある一本の杖を取り出した。
こんな長いものをローブの中に隠し持っていたのか。手品みたいだ。
杖は金属でできているようで、直線的で飾り気のない機能美を醸し出している。
「へえー、かっこいい杖ですね」
「う、うん!」
私が言うと、キリオンはうれしそうに杖を両手で握りながらこくこくとうなずいた。今までで一番反応がいい。
どうやらお気に入りのようだ。
黒い杖を握る手の近く、端の部分に青白い石がはめ込まれている。大きなビー玉くらいのサイズだ。
「それ、魔晶石ですよね。へー、そういうふうに付いてるんですね」
「そう……あの、これ、と、特注で……!」
「特注?」
「ぶ、武器屋で作ってもらった……!」
自慢げな顔をしたキリオンが杖を私のほうに差し出した。
「えっと、触ってもいいんですか?」
キリオンがうなずく。
私はうながされるままに杖を手に持ってみた。見た目よりもずっしりと重い。
「わ、すごく重いですね……」
落としてしまいそうで怖かったので、すぐキリオンに返した。
こんな重いものを携帯してるなんて、意外と力持ち……?
「杖ってこんなに重いものだったんですか」
魔法使いの印象が変わりそうだ。
「あ、ふ、ふつうは木の杖、だから……もっと軽い、よ」
「え、じゃあキリオンさんはどうしてこんなに重い杖を……?」
「あ……変な魔法だから……木の杖だと、ちょっと……」
目だけが右往左往。置き場がないみたいにうろうろしている。
「変……っていうのは、キリオンさんの魔法が?」
こくり。うなずいた。
わざわざ金属を使う理由……まさか杖で殴りかかるわけじゃないよね。
「どんな魔法なんでしょうか。気になります」
「こ、ここではできないけど……あ、あの、ものを浮かべたり、とか、できる……よ?」
杖の魔晶石がぼんやりと光ったかと思うと、テーブルの上にあったお皿がふわりと宙に浮いた。
「えっ、すごい!? お皿が浮かんでます!」
「えへ、えへ……。か、簡単だよ、このくらいなら……。ほら」
こんどはキリオンの側にあった器やスプーンまで一緒に浮かんだ。
そしてキリオンが杖をくいっと縦横に動かすと、お皿も連動するように空中で動くのだった。
「わー、魔法みたい……って魔法なんですよね。私、魔法って初めて見ました。キリオンさん、すごいです!」
「そ、そうかな、えへ、へ」
ぱちぱち。拍手をする。マジックショーを見ているみたいだ。
しかも種も仕掛けもない本当の魔法なのだ。
キリオンが立ち上がって杖を高く上げると、お皿たちも見上げるほどの高さに上がり――
「シホさーん、もうお店閉めちゃっていーいー?」
「ぴっ……!」
リルカの声に振り向くと、食堂の入り口に立っているのが見えた。
「あ、もうそんな時間になりました?」
――ガッシャーン!!
「きゃっ」
突然の騒音にびっくりして椅子から飛び上がる。
テーブルの向こうで、キリオンが真っ白な顔をして震えていた。
「あ……あ…………」
目の前には粉々に砕け散ったお皿の破片。
魔法で浮かせたお皿を落としてしまったみたいだ。
「だ……大丈夫ですか、キリオンさん。怪我はしてませんか?」
「……あ、おっ、おっ、お金……!」
キリオンが震える手でかばんをあさり、巾着袋を取り出した。
「べん、べんしょ……っ! ご、ごめんなさひっ……!」
頭を下げながら、何枚かのコインをテーブルに叩きつけるように置いた。
私は、ひどくうろたえているキリオンを落ち着かせようと思って歩み寄った。
「キリオンさん、大丈夫です。大丈夫ですから落ち着いて」
チャリーン、
コインがテーブルから落ちて、床を転がった。一瞬目を取られたすきに、ばたばたと足音が遠ざかる。キリオンが走って店を飛び出していた。
「あっ、キリオンさん!?」
私はキリオンを追って店の戸口から表に出た。通りを走っていくキリオンの後ろ姿が見えた。
思ったより脚が速い!?
「キリオンさーん!」
声を張り上げて呼びかけたときには、もう人混みにまぎれてどこにいるのかわからなくなっていた。
リルカが私のそばに来て心配そうに言った。
「ねえシホさん、もしかして、リルカ悪いことしちゃった?」
「いいえ、リルカさんはなんにも悪くないですよ。連絡、相談はとっても大事なことですよね」
リルカの頭をなでながら、私はキリオンのことを考えていた。
年の近い女の子の友だちができたと思ったんだけど……。あの様子だと、もうお店には来てくれないかもしれない。
まあ、町にいる限り、きっとまた会えるよね。
「あら。これって……? 大変!」
割れたお皿の前で、ライラがきらりと光るものを手にしていた。
「どうしたんですか?」
「あの子、金貨なんて置いて行っちゃったわ」
キリオンが置いていった数枚のコインの中には金貨があった。
ライラが持っているのは500リム金貨といって、キリオンが注文したパイシチューがゆうに100皿は食べられるほどの大金だった。
私の1日分のお給金が40リムであることを考えると、かなり大きいお金だ。お皿の弁償にしても多すぎる。
キリオン、大丈夫かな……。
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