1-ⅲ
店から出ると友広がうなじ辺りを掻きながら奈津美に
「時価、舐めてたわ。ごめん」
「私も食べたんだしいいのよ。まっ、贅沢したって感じでいいんじゃない?美味しいのは確かだったし!」
「そうだな、ありがとう」
気持ちを切り替えたところで、家路へと向かう。
家へ向かっている途中、交差点に差し掛かったところで信号が赤になり車を止める。
友広はふと横へ目を向けると、交通事故が発生した立て看板が目に入る。
その看板には即死事故注意と文字を大きくしてドライバーに注意を促すよう描かれている。
「即死事故発生って、なんだか書かれていると本当に起こりそうで怖いわよね」
「……」
「…?あなた?」
「ああ、そうだな、すまん、腹がいっぱいなのかぼーっとしてたみたいだ」
「もう、しっかりしてよ〜。運転中なんだから〜」
「ごめんごめん、気をつけるよ」
その後、友広は満腹感で意識が遠のくことなく無事に家まで着くことが出来た。
家に着くと出かける前に奈津美が湯船にお湯を張っていたようで
「お風呂はもう入れるわよ〜。あなた先に入る?それとも私と一緒に入る?」
「ば、馬鹿言うなって。2人じゃ狭くて入りにくいだろ。先を譲ってくれるなら先に入るよ」
「ふふ、そう、ならお先どうぞ〜」
奈津美の不意をつくような言葉に一瞬たじろいでしまったが、浴室はそこまで広くないため2人で入るには手狭であることの方へ思考が働いたため、奈津美の提案を断る形となった。
「ふぅ~…」
湯舟に入り運転中にぼーっとしたことについて考える。
疲れ、満腹感があったなど色々と考えてみたがどれも納得のいく答えが出なかった。
さらに考えを深めてみるが、永遠に答えの出ない思考にはまりそうになったため考えるのをやめるようにした。
風呂から出て体を拭き、寝間着を着て居間に行くと奈津美がソファーに座ってテレビを見ているため声をかける。
「いつもより長かったわね。のぼせてない?」
「長かったか?別にのぼせてるとかはないよ。そもそもこうやって普通に立っているだろ?」
「そうね~、いつももう出てきたの?って感じで出てきてるからちょっと心配しちゃった」
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとな」
「どういたしまして。じゃ、私も入ってくるわね」
そう言って奈津美は風呂場へと向かっていった。
友広は水をコップ一杯飲み、ひと息ついてからベッドで横になり目をつむる。
友広は運転をしていた。
この日は仕事が長引いてしまい会社を出たのは午後7時を過ぎていた。
いつも通りに帰り道を走っていると交差点で信号が赤になったため止まる。
しばらくすると信号が青になりアクセルを踏み交差点へ進入していく。
進入した途端、けたたましいクラクションが車外から友広の耳に突き刺さる。
音のするほうへ目を向けると大型トラックが自分の車に猛スピードで突っ込んできておりその勢いは止まる気配すらない。
車と車がぶつかりそうになった時、友広の目の前は真っ白になった。
「うわああああああああ!」
友広は叫び声をあげて飛び起きた。
「あなた!どうしたの!?」
「はぁ…はぁ…夢…?」
「ゆ…め?」
友広は全身に汗をかいており、心臓が高鳴っている。
息を整えながら、今の状況を混乱した頭の中で考える。
横に視線を移せば奈津美が必死に声をかけているが、届いているはずの声が耳に入らない。
「はぁ~~…夢か…」
呼吸が落ち着いてきたところで奈津美の声が耳に聞こえてくる。
「どうしたの?ねぇ?大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。とても悪い夢を見ただけだ。もう落ち着いたよ、心配かけてごめんな。水飲んでくるよ」
汗で失った水分を補給するため、いまが現実という認識をしっかり持ちたいと冷水を一気にあおる。
体が冷え、徐々に興奮が治まり冷静な思考ができるようになってくる。
家の電気は消えておりいまは一般的には就寝時間であること、自分はいつの間にか寝てしまっていたことなど、状況を一つ一つ頭の中で整理していく。
友広の様子を心配した奈津美が様子を伺いながら近づいてくる。
「大丈夫?」
友広は笑顔を作って奈津美に答える。
「ああ、大丈夫だ。心配かけたな」
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だよ、落ち着いた」
「そう?それならよかったけど」
その後、ベッドに二人とも横になるが友広は震えていた。
冷静になったことで夢のことを考えてしまい恐怖してしまっていた。
そんな様子を見た奈津美はそっと彼を背中から抱きしめると、徐々に震えは止まっていった。
「大丈夫よ、あなた。私が付いてるわ」
「はぁはぁはぁ…ありがとう」
落ち着きを取り戻し、その後二人とも眠りにつくのであった。