1-ⅰ
日曜日の昼間、端島友広は1人の時間を満喫するようにお気に入りの音楽を聴き、ゆっくりと生まれ育った町を行先も決めずに車を走らせる。
普段通らない道をこの時に走って行くため、新たな道の発見があり、その度に彼の脳内にある地図が更新されていく。
そんな風に車を走らせていると、腹が見事な音を鳴らして空腹を知らせてくる。
時間を確認すると、ちょうど昼前ぐらいを表示している。
どこかに食事処はないかと車を走らせながら探していると、信号を越えた先にファミリーレストランが見える。
彼は自身の空腹を満たすためにそこに車を向かわせる。
「いらっしゃいませ〜」
店に入ると店員の元気の良い明るい声が、彼の耳にいの一番に入ってくる。
声の主であるこの店のアルバイトであろう若い店員が人数を確認してくる。
1人であることを告げ、店員の案内に従って席に着く。
「ご注文がお決まりの際はそちらのボタンでお知らせください。」
店員は失礼しますと頭を下げて接客に戻っていく。
友広はメニューを取り内容を確かめていき、この店オリジナルの商品が無いかと探していく。
和食、洋食、中華と一通りだれが来ても困らないだろうメニューのラインナップだったが、外食に来たからには特別な物をという彼の思いを叶える商品は見つけることは出来なかった。
注文を決めボタンを押すと、ファミレスでよく聞く音とともにすぐに先ほどの店員が席まで注文を取りに来る。
「サーモンいくら丼を一つお願いします」
「サーモンいくら丼ですね、他にご注文はありますか?」
「以上です」
「はい、ではお待ちください」
店員との注文コミュニケーションを終えた友広は店に置いてある漫画を取りに席を立つ。
並べられている漫画を目で流すように見ていると、ふと自身が昔読んでいた漫画が目につきそれを手に席へ戻る。
中途半端な巻数だったが、中身を読んでいくと昔の記憶が思い出され、懐かしい気持ちに包まれる。
そういった思いに耽っていると頼んだ料理が運ばれてくる。
「以上でご注文はお揃いでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「ごゆっくりお召し上がりください」
漫画を汚れないようにテーブルの隅に置き、用意されている醤油を回すように丼にかけ、器の隅に盛られているワサビを混ぜ合わせて食べ始める。
この組み合わせに外れはないなと友広は思いながら箸を進め、ものの数分で完食する。
食べ終わった後は全ての行動を抑制するように腹が満足感を告げてくる。
抑制が少し和らいだところで読みかけの漫画を手に取り読み進め、読み終わる頃には家に帰る気持ちになるぐらいまで抑制は解除されていた。
レジで支払いを済ませるために席を立つ。
「880円になります」
「1000円でお願いします」
「1000円からお預かりします。120円のお返しになります」
「ご馳走様でした」
「ありがとうございましたー」
店から出ると、友広は大きく息を吐き気持ちを切り替え家路へと向かうのであった。