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TS転生ド田舎ネクロマンサー聖女  作者: どくいも
第2章 神様と死霊術師
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第20話 冒険聖職者とは

さて、翌日。

ぐずるオッタビィアをなんとか説得し、引きずるように酒場へ連行。

あきれ顔のシルグレットを尻目に、なんとかその手続きを終えることができた。


「……というわけで、オッタビィア。

 今日からお前もめでたくギャレン村の冒険者の仲間入りというわけだ。

 一応、今はまだだが、近い内にギャレン村の冒険者達には専用の冒険者の証を配布する予定だからな」


「おぉ~!村付きとはいえ冒険者の証ができるのはめでたいねぇ!」


「それに関しては、交通量と治安の問題だな。

 最近は交通量が増えてきたおかげで、外部の人間も増えてきたからな。

 さらには盗賊の類も増えてきたから、武器を持っている場合にどっちがどっちだか、区別をつけられるようにしといたほうがいいだろ」


う~ん、前半はありがたいニュースだけど、後半はちょっと怖いニュースである。

そもそも最初にこの村に来た時にいた盗賊団も、結局は行方知れずであるし、生きているならばそんなに遠くに行ってなさそうである。

さらには、あの盗賊たちはただの野盗にしては結構いい武器を持っていたので、正直あのレベルの戦闘集団がこの村の周囲で野放しになっていることを考えるとなかなかに怖い話だ。

今度暇なときにでも、浮遊霊に捜索でもさせてみるか?

まぁ、残念ながら連日のミサのせいで暇な日なんてめったにないわけだが。


「う、うう、ううううう!

 そもそも私は、あくまで教会内部での祈りを持って、神にお仕えする司祭であって……。

 い、いえ、決して冒険者のまねごともできないわけではないですが……」


そして未だ冒険者になったことを悩み続けているオッタビィア。


「そ、そうです!

 冒険者司祭なら、あくまで回復や結界の奇跡をするだけの依頼なら私でも問題なく…」


「いや、流石にその手の依頼は信用第一だからな。

 村内部ならわざわざ冒険者としてのお前に頼まないし、今のお前にそういうのを頼みたい奴はほとんどいないぞ」


「まぁ、他の村にまで行くタイプならなくもないだろうけど、今のオッタビィアちゃんだとね……。

 多分、聖痕のせいで行った時点で門前払いされるだろうけど、それでもいいの?」


残酷な現実に思わず頭を抱えるオッタビィア。


「ところで、イオ。

 お前にその手の依頼は……」


「えぇ!依頼で合法的にミサをお休みにしていいだって!?」


「すまん、やっぱり何でもない」


このクソ店主め。

というか、村の利益的には一回外で祈祷の類をするよりも、村内部のミサのほうが村的には利益が上とか、どういう判断だよ。

え?村にくる商人も楽しみにしているし、リクエストも来てるだって?しらんがな。


「うう、うううう!そ、そうです!

 そもそも今の私は聖痕のせいで最下層の乞食時代に戻っているのです!

 そもそも冒険者になっても、だれも私に依頼なんかしないに決まっています!」


「そうなるとやっぱり、私にとっての神の恩赦を受ける最適解は、祈るです!

 だから、連日すべてを捨てて祈りを続ければ……!!」


そしてこちらもこちらで、大変な問題児である。

というか、この娘はどうやら、あの聖罰で自爆した日から、自分の聖痕を解除するために行っていることがひたすらに祈ることだけだったそうだ。

しかも、その間教会に信者がやってきても、全て締め出し祈りと懺悔を繰り返し続けていたとか。

いや、それじゃ聖痕も減らんやろ。


「それに、今回の依頼に関してはオッタビィアちゃんでも絶対に断られないし、むしろオッタビィアちゃんに指名依頼だから。

 その点は安心してよ」


「な、なんでそう言えるのですか!?

 どうせ太陽神の司祭であると知ってもこの私の状況を見れば、断られるにききまって……」


「なぜなら、この依頼の依頼主は私だからね。

 オッタビィアちゃんの状況はよくわかってるから、その点は安心して?」


「ふぇ?」


「というわけで、さっそくオッタビィアちゃんの冒険者としての初めての依頼。

 【獣道の警備依頼】、やってみようか」


かくして、呆けた顔をするオッタビィア嬢を引きずり出しながら、さっそく彼女に冒険者としての準備をさせるのでしたとさ。



★☆★☆



「はい!というわけで、これが笛ね。

 危ない魔物や獣が来たときはこれを吹いてね」


「もちろんこの道は、これから先多くの人が通ることになるから、倒せるなら倒してもいいけど……。

 でも無理は禁物だよ」


かくして、依頼日当日。

オッタビィアは村からそこそこ近い獣道にいた。

今回の依頼内容は、この獣道の警備、この道には多くの子供や村人が通過するため、その間にこの道に魔物や危険な生き物が現れないかを見張るというのが彼女の任務であった。


「というわけで、今から私は今日のミサという名の遠足、いや、油陽草狩りの引率があるから。

 ここからは見守れないけど、敬虔で優秀な神の信徒であるオッタビィアちゃんなら、無理なく達成できるはずだよ」


「……はい」


「それに、この依頼をきっちり達成できれば、その聖痕も絶対に減らすことができるから!

 それは三輪の司祭である私が保証するから、がんばってね!

 応援しているよ!」


「……はい!」


かくしてオッタビィアの冒険者としての初の依頼はこうして始まった。

天気は憎いほどの晴天であり、実に遠足日和だ。

依頼内容としては、村人達が油陽草の群生地に行き来するまでの間、その道のりの中で指定された区間を行ったり来たりして、その安全性を確認することであった。

幸い、道に関しては獣道も最低限踏み固められており、道に迷うことは恐らくない。

件の神罰のせいで焼け落ちてしまったはずの聖職者としての装備も、依頼主であるイオが用意してくれた。(しかも、虫除けの加護付きで!)

本来は不本意であるはずの冒険者としての第一歩ではあるが、太陽神の信徒的には悪くない日といえるだろう。


「……本当に、こんな身の上でもなければ、悪くない日だったんでしょうけどね」


このような快晴の日には、様々な思い出が彼女の脳内をよぎった。

かつての乞食であり、飢え苦しんだ日々から、ルドーに拾われ、獣から人となった日。

更には神の声を聞いた日など、彼女の人生の転機となる日はいつも見上げてしまう程の快晴であった。


「そういえば、幼いころのルドー様はいつも晴れの日には、冒険のために私を連れだしていましたね。

 ……ふふふっ」


時々、道を通ってくる村人を遠巻きに見守りながら、彼女はルドーに拾われた当時の幼き頃の日々を思い出していた。

当時はルドーと彼女自身はもっと親しく、冒険という名の森の中の散策も楽しく行っていたはずであった。

しかし、それが変わったのはいつごろからだろうか?

神の声を聴き、自分がそれが天職だと悟ったときからか?

ルドーの直接隣にいるのではなく、学や礼節を学ぶことで役立つことを選んでしまった時からか?

ルドーのためと言いながら、ルドー個人よりもルノー家の事情を優先させることが多くなってからか?


「ああっ……だからこそ、ルドー様は……あそこまで、私を……」


そして、そのようにわが身を顧みたからこそ、彼女は気が付いてしまったのであった。

なぜ、ルドーが聖痕込みであっても、あそこまで自分を嫌ってしまったのか。

そう、シルグレットなどのかつての知り合いだと聖痕の影響下でも最低限の対応はしてくれたのに、なぜルドーが彼女に対して厳しい姿勢をとるようになってしまったのか。


「私は、知らず知らずのうちに……あの方も裏切っていたのですね」


その言葉を吐露するとともに、彼女の体についた聖痕の1つがほんのり薄くなるのを感じた。

初めて自分の懺悔が意味を成し、神に届いた気がした。

この聖刻が消えたら、いや、この依頼が終わった後でもいい、一度きちんとルドー様に謝ろう。

言い訳ではなく、聖職者としてではなく、自分自身の言葉で。


……しかし、そんな彼女の決意を邪魔するかの如く、それは現れた。


「……っ!なに!?

 何者です!出てきなさい!」


森の奥の方でわずかにうごめく影に、オッタビィアは素早く反応し、声を上げる。

イオに用意してもらった太陽神の魔除けを握りしめながら、物音がする方をにらみつけた。

すると、彼女の声が聞こえてか、その物影はゆっくりとその全容を現してきた。

それは一種の植物の球根に似た姿でありながら、植物ではありえないほど運動性を発揮し。

無数の植物性の根や蔦をうねらせ、こちらに向かって移動してきた。


「う!あ、あの姿は……【イビル・ローパー】!

 こんなところにも、生息していたのですか!」


そう、その現れた化け物の名前は【イビル・ローパー】。

植物質の魔物の一種であり、邪神によってつくられた恐るべき知性なき化け物。

見た目は巨大な植物球に似ていながら、その本質は邪悪。

人間や陽の魔力に依存する生物に積極的に襲い掛かり、その蔦をもって獲物を絞め殺す。

移動こそ遅いがその触手のスピードと力はかなりの物。

待ち伏せを得意とし、ただの植物と勘違いして近づいた人間や獣を襲い、その死骸を栄養とするかなり邪悪な魔物だ。


「うぐ……」


その魔物を見た瞬間、彼女の脳裏に、無数の悪夢がよみがえった。

彼女がまだ孤児であったころ、知り合いの乞食がこの魔物に睡眠中に襲われ、絞殺されていた思い出。

ルドーとの冒険で、茂みに隠れていたこの魔物に襲われ、危うく死にかけた思い出。


「……っふ、っふ、落ち着きなさい。落ち着きなさい私。

 とりあえず、とりあえずは、まずは笛を……」


様々なトラウマから、顔を青くしつつ、彼女は急いで笛を吹く。

すると、笛からかん高い山鳥に似た透き通った音が周囲に鳴り響き、魔物の襲来を四方に伝えることに成功した。


「あとは、あとは、あの魔物が去ってくれれば……」


魔除けを握る彼女の手により多くの汗が噴き出す。

件の魔物の一挙手一投足を見逃さないように、彼女はその魔物の姿を凝視し続けていた。

魔物は危険な存在である、できるならばさっさと消えてくれ、自分の視界から消えてくれとオッタビィアは祈るようにイビル・ローパーをにらみつけ続けた。


「……っ!!なぜ、なぜこちらに近づいてくるんですか!!」


しかし、彼女の願いとは裏腹に、イビル・ルーパーはゆっくりと、しかし確実に彼女の方へと近づいていた。


「誰か助けに……いや、そうじゃない、そうじゃないですよ私」


無数のトラウマと恐怖に悩む中。

彼女は今の状態を打開する手段を知っていた。


「でも……あの奇跡は、まだほとんど使ったことはないのに……!!」


そう、オッタビィアは一応は魔物を倒すための神聖呪文を。

光の矢を以て、魔物を貫く聖なる奇跡を授かってはいた。

しかし、今まで冒険者でもなく、冒険すらほとんどしたことがない彼女は、その奇跡を正しく使える気がしなかった。


(ましてや今の私は、【聖痕】付きだから、神は太陽神様は、本当にこんな私でも力を貸してくれるのでしょうか?

 もし、もし今ここで見捨てられたら……私は……!!)


その瞬間彼女の脳裏によみがえる、先日の【聖罰】での失態。

悪でないものを悪と裁き、そのせいで神により罰を受けたあの一撃。

あの全身を焼きつくす痛みと、心を壊すかのようなプレッシャー。

そのような奇跡をおこなうことによる失態と代償を思い出し、その目の前に迫る魔物相手にすら奇跡を使うのを躊躇してしまっていた。


「あっ……!!」


彼女がそんな葛藤をしている隙に、すでに件の魔物は彼女へと十分に近づいた。

そして、イビル・ローパーはさっそく自分の射程に入ってくれた無防備な獲物に向かって、その触手による強烈な一撃を放ち……。


「……あれ?」


そして、その一撃はあっさりと弾かれた。

彼女は、覚悟していた衝撃が全然やってこないことを不思議に思い、恐る恐る目を開ける。

するとそこには、虫除け加護などと称されていたはずの自分の外套が聖なる光を放ちながら、その魔物の一撃をはじいていたのが分かった。


「あ、そうでした、そうでしたね……」


かくして、オッタビィアはようやく自覚した。

今の自分は確かに自分の傲慢と失態により、ありとあらゆるものを失った。

しかし、それでもすべてを失ったわけではないと。

自分にも依頼を回してくれたシルグレットをはじめとする一部の村人や、過保護なまでにこちらに気を回してくれるイオ司祭。


「……そして、何よりも今の私は太陽神の正当なる信徒!!!!

 イビル・ローパー程度の雑魚魔物なんて物の数ではありませんわ!!」


なによりも、この状態になってもなお自分を見捨てない、太陽神の加護が自分にはついている!!

魔力を高め、心に灯をともし、信仰を掲げることで、周囲の陽の魔力が高まるのを感じる。

自分の内なる魔力だけではない、周囲の空間のありとあらゆるものに、何よりも天から降り注ぐ驚くほどの太陽光すべてに太陽神の威光と加護を、彼女は感じることができた。


「邪悪なる者よ!滅びなさい!

 【聖光の一撃(ホーリー・ショット)】」


かくして、彼女の放った低位の退魔の奇跡は、低位とは思えぬほどの巨大な光の矢となり、目標へ着弾。

強大すぎるほどの陽光の爆発を引き起こしながら、塵一つ残さずイビル・ローパーを吹き飛ばすのであった。




「おまたせ、まった?」


彼女の祈りを以て、魔物を倒して数分後。

発見時に鳴らした笛の音を聞きつけたイオが、その場にやってきた。


「あら、イオ司祭。

 全然? お早いお着きで。

 ……しかし、折角呼んでおいて悪いですが、件の魔物は放置すると危険と判断したので、私の方で倒しておきましたわ」


そして、オッタビィアのほうは先ほどまでの動揺は、どこへやら。

まるで余裕を持って魔物を倒したかのような様子で、イオを出迎えたのであった。


「それにしてもイオ司祭……。

 このお貸しいただいている外套ですが、すこし守りの力が強すぎでは?

 魔物の攻撃を緩和するのではなく、ほぼ完全に防ぐだなんて。

 ちょっと、いっぱしの初心者冒険者にはすぎたものだと思いますよ?」


「いや?その外套自体に仕込んだ奇跡自体はそこまですごいものでもないよ。

 ……ただ、その外套に仕込まれた奇跡は、着ている人の【神聖】が高ければ高いほど効能が高くなるような仕組みだからね。

 それが強力だと感じたのは、オッタビィアちゃんの信仰心と太陽神の加護の強さが原因だね」


「えへ、えへへ、そ、そうでしたか!

 な、なら仕方ありませんね!」


イオの言葉を受け取り、嬉しそうにするオッタビィア。

今の彼女には依頼前に感じたような、迷いは感じられず。

まるで太陽のような笑顔を浮かべる。


「流石に時間も時間だし、魔物も出たからね。

 さっそく今からみんなが野草狩りから帰還するけど……。

 オッタビィアちゃんのほうは大丈夫?」


「もちろんです!

 私も見習いとはいえ冒険者司祭!

 しっかり、この依頼を達成してみせましょう!」


かくして、彼女は初の単独魔物撃破という実績により、聖痕を減らしつつ高らかにそう宣言するのでしたとさ。






なお、それから数刻後。


「む!新しい影?

 どんな魔物だか知りませんが、喰らいなさい!!

 聖光の一撃(ホーリー・ショット)!!

 ……って、あれ?」


初の魔物退治と聖痕減少により調子に乗った彼女を罰するかのように、野性の豚が登場。

魔物でもない相手に、神聖攻撃魔法を放っても効果はなく、威力もでず。

無駄にその野性の豚を怒らせてしまう。

かくして、オッタビィアはその後怒れる野豚相手にぼこぼこにされたことにより、大怪我で無事教会に運ばれることになるのでしたとさ。


「すいませんイオ司祭。

 聖痕は減ったのですが、代わりに生傷が増えてしまったのですが……」


「それに関しては、回復の奇跡でなんとかなるから、我慢しなさい」


さもあらん。








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