第67話 「新しい力」
アイテムにさっき作ったカプセルを嵌め込むことで、俺の魔道具は完成した。
「どんな能力にしたの?」
「転移の能力にしてみた。上手く出来たかは分かんねえけど」
「……カイリ、多分それ一番良い選択だよ」
「そうなのか?」
「魔道具は誰でも扱える代わりに、本来のスキルより出力が落ちちゃうから、戦闘向けの能力を付与しても有効な攻撃手段にならない可能性があるの。だから、搦め手や補助に特化した方が優秀なことが多いんだ」
「それを最初に言ってくれたら良かったのに」
「初めて作る魔道具だし、偏見に囚われず好きなものを作ってほしいって思ったんだ。結果論だけど、言わなくて正解だったし」
俺のためを思っての行動と言われたら、もう反論できない。
「ちょっとその魔道具、試してみる? あたしが相手になるよ」
「早速実戦か……分かった、やろう」
流石にこれをぶっつけ本番で使うよりは練習も兼ねて使っておいた方が良いだろう。
俺たちは部屋を後にすると、王城から少し離れた修練場に移動した。
◇
「魔道具はスイッチを押すだけで発動できるよ。ただ、能力だけ発動してもイメージで形に出来なきゃ駄目だからね」
「イメージ、イメージ……」
俺はどこに転移するのか。それを詳細に思い浮かべなければ行けない。
俺は意を決して魔道具のスイッチを押した。すると、一瞬で俺の姿が消え、次の瞬間にはソニアの背後に立っていた。
「狙いどおり……ではないけど、大体オッケーだな」
今、俺が出現した場所はソニアからちょっと離れてる。
本当はもっと近い位置に行きたかったんだけど、誤差だ誤差。
「じゃあ、実際に戦ってみよっか。あたしの魔道具も練習しときたいし」
そう言うとソニアは俺から距離を取って、杖を手に取る。
「あたしの魔道具、いくつかの能力を複合してるから……まあ、こんなこともできるよってことで」
ソニアが杖をかざすと、空中に巨大な火の玉が生成される。
そういえば、「厄災」討伐前に、ソニアの能力を見たことがあったな。てっきり魔法的なものかと思ってたけど、魔道具の力によるものだったんだ。
「って、そんなことに驚いてる場合じゃねえ」
練習と言いつつ人が死にかねない攻撃してるけど大丈夫?
あんなもん直撃したら焦げるじゃすまないよ? 灰も残らないよ、きっと。
俺は魔道具を使って、勢いよく飛んでくる火の玉を避ける。
なんとなく転移のコツを掴めてきたように感じる。
「次はもうちょっと避けにくいやつやってみるね」
再び火球が出現して――分裂した。細かく二十個くらいに分かれた火の玉が四方八方から飛んでくる。
「そんなこともできるんだな……使いこなしてんな」
俺のも応用できるかもしれない。今、俺の頭に新しい使い方が浮かんできた。
「飛んできてるやつ……イメージしろ。俺なら、出来る」
俺は魔道具のスイッチを押した。すると、飛んでくる火の玉の半分が一瞬で消え……俺の方に飛ぶ玉の進行方向に出現した。
火の玉同士がぶつかって、相殺する。俺は転移の能力を自分じゃなく――飛んでくる火球にかけたのだ。
そして火球同士で相殺し合うよう、位置を調節した。
「そんなのアリなの!?」
「ソニアのおかげだ。固定観念に囚われなければなんでも出来る。それを知れたからこういう使い方も思い付いた」
それから俺たちは魔道具を使って何度か模擬戦をやった。
◇
「……はぁ、疲れた」
自室に戻ってベッドに倒れこむ。ソニアとの修行の後、シャルのところで剣術を教わった。今日一日ずっと戦ってた。
「でも、まだ足りねえ……」
俺が戦いに行けるだけの力を手に入れるにはまだ時間がかかりそうだ。
……正直、焦ってる。早く上達しないと、取り返しがつかなくなるような気がして――
俺のそんな嫌な予感は、すぐに当たることになる。
翌日のことだった。
修練場でシャル、ソニアと待ち合わせをしていたからそこに向かおうと、大通りを歩いている最中。
――掲示板に、人が集まっている。普段より人数が多い。人で埋め尽くされんばかりだ。
「なんで、今日に限って……」
待ち合わせの時間にはまだ余裕がある。俺はついでに掲示板を見ていこうと思って人混みの中を歩く。
――その時、見てしまったのだ。
『カルード帝国が原因不明の崩壊。死傷者多数』
あまりにも不穏すぎる、その見出しを。




