第66話 「初めての共同作業」
「そういえば言ってなかったんだっけ。まあでも、そんなに重要なことでも――」
「大分重要だよ! だって、ようやく会えたんだぞ、日本人に!」
異世界ももちろん楽しいけれど、故郷の話をしても誰も分かってくれないのは少し寂しい。
そういう意味で同郷の民と一緒なのは嬉しい。
「あれ、でもソニアって名前日本人っぽくないよな」
「それはネトゲで使ってた名前をこっちで使ってるだけだし。本名使うよりそっちの方が異世界では馴染めそうじゃん」
ソニアは上手く立ち回っていたようだ。
「それに、黒髪黒目って、ザ•日本人でしょ。それであたしが同郷だって知ってるものだとばっかり」
「珍しいなとは思ってたけど、まさか本当にそうだとは思わなかったよ。そっか……仲間がいてくれたんだな……」
「やっぱり、カイリはあたしを恨んだりしないんだ」
「なんで恨むんだよ」
「正直ね、あんまり会話に参加しなかったのは、陰キャだからってのもあるけど、それ以上に後ろめたかったんだ。同じ境遇で助け合わなきゃ行けないのに……ハルトのパーティーにいたときは助けるどころか突き放してた。自分が居場所を失いたくないからって」
「でも、ソニアはシャルやカナと一緒に奴隷にされてたんだろ? 俺よりよっぽどハードモードじゃねえか。だったら、俺を多少悪く扱ったって仕方ないって思うよ」
俺とはスタート地点が違う。もちろん、ハルトパーティーにいた頃は扱い悪かったと思うけど、それ以外は特別不自由しなかったしな。
なんなら神様がついてるって安心感もあった。……あの時は。
今思うとあの神との二人旅なんてゾッとするけど。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、優しすぎてちょっと怖いかも」
「優しすぎて怖いとか初めて言われたわ」
優しいなら怖いとかなくないか?
「カイリ、同じ境遇だからって、それを他の人に伝えたりしないでね。この世界の人には日本人ってこと、バレないようにしてるんだから」
「なんでだよ、別に話してもいいじゃねえか」
「カイリのパーティーに入る前だったら良かったかもね。……でも、今は駄目なの」
「訳が分からねえよ」
「同郷って知られたら、ライバル認定されそうだし……」
ライバルってなんだ。誰かとなにかで競争したりしてるのか。
「……今更、頑張ったところで他のみんなみたくアピールできないもん」
今、ソニアがボソッと呟いた気がしたけど、なにを言ってるのか全く聞き取れなかった。
「と、とにかく! 早く魔道具作ろうよ! そういう話だったでしょ!」
「いや、そうだけど……」
なんか釈然としないまま、俺とソニアは魔道具作りを始めることになった。
◇
魔道具は誰でもスキルを扱えるように、っていうのをコンセプトにした道具だ。
簡単な動作でスキルみたいな能力を発現できる。
「どうやって作るんだ?」
「やり方自体は簡単だよ。ほら、これあげる」
そう言って、ソニアが俺に渡してきたのは――
「カプセル?」
「それに魔力を込めながら、どういう能力を発動させるかをイメージするの。そのカプセルは代理でスキルを発動してくれる装置だね。分かりやすく言うと」
スキルの発動に必要な工程は二つ。
一つはイメージすること。そしてもう一つは、体内で魔力と言う形のないエネルギーをスキルに変換すること。
その内、変換の作業を代理してくれるのがカプセルの役目。俺はイメージをしてスキルを形にすればいいわけだ。
「なにを作るべきか……」」
「これはカイリが使うやつだから、好きなのをイメージすればいいと思うよ。ちゃんと具体的に思い描かないと失敗作になっちゃうから、心配だったらあたしが作っても良いけど」
「いや、俺がやるよ。折角ソニアが用意してくれたチャンスだ。ものにしないとな」
力をなくした俺が出来ること。強力な魔道具作ったらまた戦いに出られるかもしれない。
しばらく経った後、ついに魔道具が完成する――




