第64話 「信じる気持ち」
力をなくした俺が行ったところで、足手まといにしかならない。それは俺も分かっていた。
「カイリ様……わたしもエリザベスさんと同じ意見です。カイリ様はこれまでいっぱい頑張ってきました。後は、ゆっくり休んで待っていてください」
「でも……」
当たり前についていくつもりだったから、ナナにそう言われるのが悲しかった。
「お願いです。わたしを、安心させてください」
「俺が行った方が、不安ってことかよ……」
「……申し訳ありません」
言いたいことは分かる。俺だって、ちゃんと理解してる。……多分、意地になってるんだな。
今まで俺の力があって進んできた。俺が一番前を走ってきた。数多くを助けたし、もちろん、パーティーメンバーたちも。
だから……俺が、ただ待っているだけってのが認められなかった。
「ねえ、カイリ……イオリちゃんからも、お願い。待っててくれた方がいいかな」
「……分かっ、たよ。俺は、ここで待ってる」
「私はカイリに付いておこう。一人にさせるわけにもいかないからな」
シャルが俺のそばに来る。
「あ、あたしも……カイリの方についてるね」
シャルの後に続いてソニアも俺に近寄る。ちょっと前まで、女の子二人に挟まれてドキドキしてたんだろうけど、今はなにも感じない。
ありがたいとは思うけどさ、それ以上に、俺自身の無力さが嫌だった。
「これで、かの国に向かう者は決まったようじゃの。妾の後をついてくるが良い」
カルード帝国に向かうのはエリザベス、ナナ、イオリ、フィオナの四人で決定してしまった。
すたすたと歩き去っていくエリザベスを追って、みんなも歩き出す。そんな中、ナナだけがこちらに戻ってくる。
「カイリ様、そんなに不安そうにしないでください。カルード帝国は武力を重んじている国だそうですし、あの神様にだってそう簡単に負けることはないでしょう。わたしたちだって、一度はカイリ様なしでも戦えてます」
「……あぁ、そうだよな」
「だから――きっと大丈夫です。今回も、ちゃんと帰ってきますよ。カイリ様、わたしたちを信じて待っていてくださいね。カイリ様に頼られてるって思うと……すっごく、力が出るんです」
ナナの顔には満面の笑み。……それが、ナナの精一杯の強がりだとすぐに分かった。
怖くて怖くて、今すぐ逃げ出してしまいたい……そんな気持ちが、伝わってしまった。
分かっているのに、俺はどうしてやることもできない。俺が行ったところで、神を相手に立ち回ることなんてできないから。
「ごめん……」
「謝らないでください。むしろこちらの方が申し訳ないと思ってます。カイリ様と一緒に戦いたいって、気持ちは本当ですから」
ナナが俺の手を握りしめる。
「みなさんも待ってますから、そろそろ行きますね」
ナナは俺から手を離して、少し距離を取る。
「――行ってきます」
……また、強がりの笑顔。俺の心が、針が突き刺さったように痛む。
「行ってらっしゃい」
小さくなっていくみんなの背中を、俺はただ見ていることしかできなかった。