第61話 「千年前の記憶」
「あの本は、『読む』ものじゃなくて『見る』ためのものだったんだ」
「見るため……ですか」
「そうだ。そこで千年前の英雄たちがなにをしてたかも見ることができた」
本来なら知ることはできないはずの千年前の知識を得たからこそ、俺は俺の内に宿る「神」の正体に気づけた。
「千年前、世界に現れた邪神を五人の英雄が倒した。ここまでは伝承として残ってるよな」
「それはこの世界の人間全員が知っておることじゃ。まさかそれで、妾の気を引けるとは思っておらぬだろうな」
「大丈夫、重要なのはこっからだ。英雄たちはただ邪神を討伐しただけじゃない。――神の力の奪取に、成功してたんだ」
「神の力を……奪う……」
「神を倒すこと自体はできた。だけど、遠い未来で、また邪神のような存在が現れるかもしれない。その時に対抗できる力がなかった場合、蹂躙されるのを待つだけになる。それを危惧した英雄たちは神の力を封印することにしたんだ」
「それが封印の祠ってことですか……?」
「あぁ、そういやそんなのもあったな。でも、アレの存在は『本』にもなかったな。俺の見た封印ってのは、『人間の魂に閉じ込める』って方法だったんだ」
「人間の魂? そんなことできるんですか?」
信じられないのは俺だって同じだ。でも、本を通じて見てしまったのだから、信じる他ない。
そもそも、『魂喰い』なんて存在がある時点で魂に干渉する技術があってもおかしくない。
「流石に全く他人の身体に神の力を埋め込むわけにはいかなかった。だから、英雄たちの中からシオンって人が選ばれたんだ。シオンの魂に邪神の力を封じて、誰もてが届かない場所に封じる。そうして、封印は完成した」
「シオンって誰? イオリちゃん、、昔話苦手かも~」
「えっと……シオンさんは、英雄のリーダーだった人だと思います」
「ナナの認識で合ってるよ。シオンは英雄の中でも一番強かった。だから、神の力を埋め込んでも力に呑まれなかったんだ」
イオリが知らないのは意外だった。こういう時、ナナがいてくれると変わりに説明もこなしてくれるからありがたい。
「それにしても、誰も手の届かないって一体どこのことなんでしょう……」
「あぁ、それはな――」
この世界の存在がどう頑張っても干渉できない場所。
封印の祠でもない、その場所は――
「――異世界だ」




