第58話 「一難去っても」
エリザベスさんと神の戦いが始まりました。エリザベスさんは扇からいくつもの竜巻を生み出して攻撃しますが、その全てが神によって軽々弾かれます。
「キミ、どうしてスキルを使わないのかな。その技はスキルじゃないって言ってたよね?」
「貴様程度に……見せてやる義理など、ない……はぁ」
「強がる割に息が切れてるね。ボクはまだまだ全然平気だよ。折角、千年ぶりに力を取り戻したんだ、もっとボクを楽しませなよ!」
神は楽しそうに、剣を振るいます。イオリさんの指示でエリザベスさんはなんとか攻撃をしのいでいますが、これが長く続くのは危険です。
……もしかして、エリザベスさんはスキルを使わないんじゃなくて、「使えない」……?
もしそうだとすると大変です。
「でも、わたしには治療することしか……エリザベスさん! 今治します!」
こちらに吹き飛んできたエリザベスさんをスキルで回復します。
「即死を狙わないと、回復されてしまうんだね……やっぱり『末裔』は邪魔だな。いくら役割を終えたといっても……」
なにやら考え込んでいる様子の神ですが、その姿は隙だらけで……エリザベスさんが見逃すはずもありません。
「いい加減に……しろっ!」
扇から放たれる最高出力の竜巻が神を襲って、ようやく明確にダメージを与えることができました。
「不完全に解放されたままだと、仕留めきれるか分からないな。優先すべきは他の末裔の抹殺か……うん、そうしよう」
「貴様、なにを言っておる。妾を無視するなど……」
「キミを相手にしている暇はなくなった。それに、カイリから力を取り戻した今、この時代にボクの敵はいない。せいぜいボクが殺しに来る日まで、恐怖に苛まれながら生きていくと良いよ」
神はそう言うと、空に浮かび、どこかに飛び去って行きました。
「とりあえずしのげた……のかな」
「でも、危険なことを言ってましたね。他の末裔の抹殺……とか。末裔って……あれ、もしかして」
末裔という単語から、一つの考えがわたしの頭によぎりました。
「もしかして、千年前の英雄の末裔のことだったり」
「ナナちゃん、それどういうこと?」
「かつて、邪神を封印した五人の英雄は、それぞれが国を作ったと伝えられています。その言い伝えがあるからこそ、英雄に匹敵する功績を上げると一国の王になれるという制度が出来たのですが……それはいいですね」
「ともかく、わたしのような王族は、千年前の英雄の血を受け継いだ一族なのです。その末裔というのは今代の王族……わたしやエリザベスさんと言うことじゃないでしょうか」
「他の末裔の抹殺……つまり、あの輩は他国の王族を殺すことを狙っておるということか。国を跨いで移動をさせるとは……どこまでも妾に労をかける輩じゃな」
「それって、エリザベスさんはあの神……いえ、邪神を追うつもりですか?」
「当然だ。……約束、だからな」
エリザベスさんが「約束」という言葉を出すとき、なんだか少し寂しそうでした……
「とりあえず今は、シャルさんのところに戻りましょう。カイリ様の安否が心配です」
なにはともあれ、無事生き残ったみんなで戻ることになりました。
◇
「カイリ様の容態はどうですか?」
「む、ナナか。無事だったんだな……カイリはまだ目覚めない」
シャルさんが悲しそうに眉をひそめています。悲しい気持ちは分かります。わたしも同じ気持ちなので。
「念のため、治療しておきます。わたしに出来ることは、全部したいので」
スキルでの回復を試みますが、やっぱりカイリ様は目覚めません。
「カイリ様……起きて下さい。早く、元気な姿を……また見せて下さい……」
わたしの嘆きは、乾いた空気の中に消えていきました。