第57話 「暗雲の中」
わたしとイオリさんは街中を走って怪我してる人たちを助けていました。そうやって街を駆け回っていると、エリザベスさんと合流することが出来ました。
「あっ、エリザベスさん! 無事だったんですね」
「……そうか、貴様らも無事だったのか」
「その、背中に抱えてる人は……すみません、今治しますね」
エリザベスさんが執事の男性を背負っていました。崩壊した街で怪我をしてしまったのかと思って提案したのですが……
「いや、いい。……連れ回しすぎたからな。少し、暇を与えてやりたい」
エリザベスさんの言葉で、なんとなく察してしまいました。それ以上は本人にしか分からない気持ちだと思って、詮索はしないことにしました。
「そうだ、エリザベスさんも協力して街の人を助けに行きましょう。今は少しでも人手が……」
「それより、妾にはやるべきことがある。あやつを倒す。不遜にも、妾の頭上に漂うあの存在を……滅ぼさなければならぬ」
エリザベスさんは宙を舞うカナさんの姿を睨んでいました。
「戦うなんて……カイリ様と同じ力を使う相手に挑むのは無謀すぎます!」
「だが、いくらけが人を治したところであやつが存在する限り、危険は消えぬ。ならば一刻も早く始末しなければならないだろう」
「それは、そうですが……」
カイリ様抜きで戦うのはとても不安でした。わたしたちのパーティーは直接的に戦える人間が少ないので……わたしも回復以外にできることはないですし。
「どっちにしても一人で行くのは無茶だよ。イオリちゃんは協力した方が良いと思うな。で、一緒に来るなら多数決で行動を決めないとね。ここには人助け優先が二人、はいじゃあ決まりで」
「臆するのであれば貴様らはここで待機しているがよい。妾は一人でも戦う。逃げはせぬ」
「エリザベスちゃんだってカイリの強さは知ってるでしょ。あれと同じ力を使ってるんだよ。みんなで逃げた方が確実じゃん。どうしてそれが分からないの?」
「逃げてどうする。逃亡して、あやつの脅威に怯えて暮らすのか? 逃げた先で襲われれば、犠牲は更に増すだろうよ」
エリザベスさんはとっくに覚悟を決めているようでした。エリザベスさんが言ってること自体は理解できるんです。
だけど……カイリ様抜きで戦うことが怖くて。わたしは、街の人を救助するということを名目に逃げていたんです。
でも、カイリ様がいないからこそ、わたしたちが頑張らないといけないんです。エリザベスさんの覚悟に触れて、わたしはそう思うようになっていました。
「……分かりました。わたしも戦いに出ます。街の人もあらかた救助はできましたし。エリザベスさん、傷はいくらでもわたしが回復します。だから……一緒に戦いましょう」
「ナナちゃんまでそっちに行くのか~。じゃあ多数決だとイオリちゃんの負けだね。うん、じゃあ行こっか。正直めっちゃ怖いし行きたくないんだけど……逃げても被害が増えるだけってのには納得だし。逃げ場もないし」
「そうか。それが貴様らの結論か。ならば、妾についてこい。妾は必ず生きて帰る。……ついでに、貴様らもな」
「ついでじゃなくてちゃんと生きて帰らせてね。だってイオリちゃんもナナちゃんも戦えないし」
戦力はエリザベスさんだけ。出来ることはエリザベスさんを全力でサポートすること。
わたしたちはカナさん(仮)の真下へ移動します。すると、向こうもわたしたちを認識したようで、空から降りてきました。
「あぁ、キミたちか。どうしたんだい? そんなに怖い顔をして」
「貴様が諸悪の根源か。見目は麗しい少女の皮を被っておるが……その中身が醜悪が故、見ておられんな」
「散々な言い方だね。でも、今のボクはとても機嫌がいいから、許してあげるよ。それにしても、神を相手に醜悪なんて、人間程度にしては随分な態度じゃないか」
神。カイリ様もそんなことを言っていた気がします。もしかして、カイリ様に関与していた神は、この存在のことなのでしょうか。
「妾をただの認識するなど、『神』という存在もさほど大したものではないようだ。妾は神をも凌駕する王女じゃ」
「……いや、王女も人間の範疇だと思うんだけど。やっぱり、キミみたいな相手は苦手だ。それで、なにしに来たんだい? まさか、呑気に談笑でもしに来たわけじゃないよね、キミたちの様子を見るに」
「妾は貴様を打倒しに来た。妾の前で不遜にも破壊の限りを尽くした貴様に、誅を下してやらねばな」
神様を相手にしても全く動じず言い返すエリザベスさんは本当に頼もしいです。
「――あははっ! 人間がこのボクを倒すなんてね! とっても面白い冗談だよ! そこまで笑える冗談を言えるキミはボク専用の道化として飼ってやってもいい……って、言いたいところだけど」
神様はエリザベスさんに大きな剣――カイリ様が使っていた「デュランダル」を向けて宣言します。
「キミだけはこの場で殺しておかなければいけなかったんだ。折角キミの方から死にに来てくれたんだ。丁寧に、殺してあげるよ」




