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第54話 「全てを知った者たち」

 この世界の誰も知らない、その中身は……拍子抜けな代物だった。


「……本が一冊だけ、だよな」


 豪華な装備も、宝石のような宝も、入っていなかった。

 あったのは一冊の本。古ぼけて、表紙の文字がなんて書いてあるのか分からない。


「こんなものが入っていたんですね……」


「なんの本なんだろう」


 俺は思わず手に取る。宝箱に入れてあるぐらいなんだから、相当価値のある代物のはずだ。


「『その人物が来ればいずれ開く』……その人物、というのが、カイリ様のことだったのでしょうか」


「だとしたらこの宝箱を作ったやつはなんで俺が来るって分かったんだ? たった一年前に……それも、突然やって来たのに」


 予想なんてできるとは思えない。未来でも見ることができれば別だろうが。


「未来……まさかな」


 自分でも馬鹿馬鹿しい理屈だと思って笑う。

 そんなこと、起きるはずがないし。


「これ、読んでみましょうか」


「この表紙の感じだと呪われたりしそうだけどな」


 紫色で、魔法陣のような謎の紋様が刻まれている。

 読むだけで悪影響を受けそうな禍々しい見た目だ。


「一旦俺が預かっててもいいか? この宝箱を開けたのも俺ってなると、俺となんかの繋がりがあるとみて間違いないだろうし」


「もちろん、カイリ様のお好きなように使って頂いて構いませんよ。ですが……なんだか不思議な感じです。こんなに怖そうな見た目なのに、不快感を覚えないというか」


「それは俺もだよ。なんなんだろうな、この感覚」


 ひとまず俺はその本を脇に抱えることにした。


「先に城の見学を終わらせようぜ。本を読むのなんていつでもできるしさ」


「それもそうですね」


 俺たちは城内探索を続けることにした。



 広い城の中を歩くだけでかなり疲れてきた。


 若干足も痛くなってきた気がする。


「ちょっと休憩にしましょうか。食堂に行っておやつでも食べますか?」


「いいな。喉も乾いてきたし」


 食堂は百人は人が入れそうな広さをしている。

 王様とかだけじゃなくて使用人もここで食事をとっているだろうし、このくらいないと収まらないんだろう。


「あんなことがあったから、お菓子もちょっと怖いな」


「今はわたしたちが管理してるんですから、安全ですよ」


「それは分かってるけどさぁ」


 変なものは入ってないのはわかるけど、どうしても緊張するのは許して欲しいところ。


 食べるとちゃんと美味しくて、流石お城の使用人と言いたくなる。


「お菓子を食べると、思い出しますね。……アリシアさんのこと」


「……そうだな」


 アリシアの死体は王城の敷地内に墓を建てて埋めた。

 自業自得だと、そう割り切れられたら気持ちが楽になったんだけど。


 俺にはその切り替えの速さはなかったみたいだ。


「アリシアさんの死の真相も分からないままで……なんだかモヤッとします」


 ナナにはアリシアが毒を広めたことを伝えていない。

 ナナの中ではアリシアはただの被害者ということになっている。


 あんな意味不明な理屈を正直に話しても混乱させるだけだし。俺は最善の選択をした……と思う。


 優雅というには雰囲気が重すぎるティータイムを終えて、城から出ることにした。


「あのままお城で生活することもできますけど……」


「いや、みんな一緒の家で暮らせる方がいいよ。あのお城は、仕事以外では使用人の人たちに使ってもらおう」


 なんか城が別荘みたいな扱いになってきたけど、まあいいや。


 俺たちは手続きにひと段落ついたパーティーメンバーと一緒に街へ遊びに出かけた。



 夜になって、自宅(豪邸)でくつろごうとしたところ、俺の視界にあるものが入ってきた。


「……本」


 禍々しくて、中を見るのが少し怖い。あの時ナナと一緒に見なかったのは俺の覚悟が足りてなかったのと、もしなにかが起きた時にナナを巻き込みたくないと思ったからだ。


「今は一人だし、巻き込むこともねえよな」


 俺は覚悟を決めて本を開く。――その時。


「――っ!」


 ――俺の脳内に一気に情報が流れ出してきた。

 知らない景色。知らない人。知らない土地。知らない名前……じゃない。


「――思い、出した」


 元々知っているはずの知識たちだった。違う、もっと正確に言うなら――「封印されていた記憶」だろう。


「これを、残したのは――」


 俺の中で全てが理解できた。全てが繋がった。


「――神様」


 誰もいない部屋で、俺は呟く。


「聞こえてんだろ。無視したって無駄だ」


『聞こえてるけど、どうしたんだい? 前にカイリに情報を与えなかった負い目から、顔を出しづらかったんだけど』


 出してるのは顔じゃなくて声だろ、なんて、普段の俺なら言ってただろうが……今の俺にはそんなツッコミすらできる余裕はない。


「そんなことはどうだっていい。神様、正直に答えろ」


『なんだろうね。ボクに答えられることならなんでも……」



「――お前は、俺の敵だな?」



 その瞬間、どこかから殺気を感じた。


『……さっきの本か。それでキミは知ってしまったんだね。本当に……厄介なものを残してくれたよ、あいつらは』


 神様から、明確な敵意と悪意を感じる。そして、その矛先は間違いなく――俺だ。


『そのおかげで――』


 突然、俺の部屋の扉が開く。中に入ってきたのはカナだった。


「あ、あのここに来て、私は、なにを……」


「カナ、なにを言ってるんだ。別に俺は呼んでな――」


「――あぁ、そうだ。呼んだのは、ボクだからね」


 ――カナの口調が変わる。おどおどしていた態度が一変、その表情には、余裕の笑みすら浮かんでいた。


「本当に、厄介なことばかりだったよ。まさかこんなところで――キミを始末しないといけないとはね」


 カナが……いや、カナの身体を「乗っ取った」神が、懐から短剣を取り出す。


「それは……」


「『魂喰い』。手に入れてくれてありがとう」


 俺の腹に、「それ」が刺さる。


 物体の魂そのものに傷をつける、英雄の武器。

 それがよりにもよって最悪な存在の元に渡ってしまった。


「――返してもらうよ。ボクの力を」



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