第52話 「変わらない日常」
「ふわぁぁ……カイリ様、おはようございます」
俺の部屋にナナが入ってくる。いつも宿を借りて生活していたから、「自分の家」があることが未だに信じられない。
「いや、違うか。俺たちの家……だな」
この家には俺以外に、ナナだけが住んでいるわけじゃない。
パーティーメンバー全員がそれぞれ部屋を持っている豪邸だ。
ナナは王女になったし、俺もそれなりの立場になったしで、厳重な警備態勢の家が必要になった。
流石に一般的な家に王女を住ませるのは不用心すぎるからな。
「カイリ様……どうされたんですか?」
「良い家をもらっちまったなと思ってさ」
この家は国民のみんなからの寄付でできている。
正直、これまでの実績から自腹でも払える金額だったし、国民に迷惑をかけたくないと思ってたから断ったんだけど……なんか勝手に集まってた。
俺が拒否するのは知っていたらしく、断られないために強引にでも寄付したそうだ。
そこまでの好意を無碍にするわけにもいかず、寄付の金を使って豪邸を建ててもらったのだ。
「ナナも、こんな高級な家でゆっくりできるのは久しぶりです」
「ずっと逃亡生活だったもんな。贅沢させてあげられなくて悪かったな。これからはなんでも言ってくれて良いから」
「わたしは気にしてませんよ。むしろ、今までの生活の方が性に合っていました。ここは……とっても良い家ではあるんですが……なんだか緊張しますね」
ナナは元々王城で暮らしていたけど、そこでの生活はあんまり良い思い出じゃなかったのかもな。
父親に命を狙われるなんて事件が起こったわけだし。
もうちょっと民家っぽい内装にすべきだったか……?
日本でやってたゲームで建物を建築する時やたらこだわったせいか、この家も結構色んな注文をした気がする。
「それより、カイリ様。今日はなにか予定とかありますか?」
「んーないけど、どうしたんだ?」
「せっかく王城に自由に行き来できるようになったので……みなさんにお城の中を案内しようと思って!」
「城……かぁ。興味はあるけど、ナナの方は大丈夫なのか?」
「……はい。わたしはなんともないですけど」
ナナが良いならいっか。俺は気持ちを切り替える。
「じゃあ城に行こうか。中にどんなのがあるか楽しみだな。ゲームだと宝箱とか置いてあるんだけど……あんのかな」
「げーむ? がなにかは分かりませんけど、ありますよ。宝箱くらいなら」
「あるんだ!?」
俄然興味が湧いてきた。ファンタジー好きにとってこれほど魅力的な言葉があるだろうか。いやない。
俺は意気揚々と支度を整える。