第50話 「救いの手」
「カイリ様! 目覚めたんですね!」
最初に俺を出迎えてくれたのは、ナナのそんな声だった。
「良かった……生きててくれて、本当に良かったです……」
見渡すと、俺が捕まっていた牢屋の中だ。だけど、今までとは違うところが二つ。
牢屋の鍵が壊されていることと、俺の手錠が外されていることだ。
「ナナがやってくれたのか……? でも、牢屋の鍵を壊すなんてできるのか」
「牢屋を壊したのはわたしじゃないですよ。エリザベスさんのおかげです」
「エリザベス……?」
ナナの隣を見ると、そこには真紅のドレスに身を包んだ金髪長身の女の子――エリザベスがそこにいた。
「なんでお前がいるんだよ!?」
「なぜか妾は表彰式とやらに呼ばれんかったものでな。国王とて、妾に対し非礼の態度を取るのであれば相応の報いを受けさせるべき……と思って乗り込んできただけじゃ」
「……つまりなんだ。厄災を倒すのに協力したんだから自分も祝えと。なのにお前を呼ばないからブチギレ中ってことか……お前の頭に常識とか入ってないの?」
「王女相手に『お前』呼びする輩に言われる筋合いはないな」
なにも言い返す言葉がございません。
「それと……アリシアさんは、間に合いませんでしたか……」
「こっちは、色々説明しなきゃいけないことがあるんだけど……ゆっくり休ませてあげたい、なんて言ってる場合じゃないよな」
王を敵視するなら、ここは敵の本拠地だ。こうしてのんびり喋っているわけにもいかない。
「エリザベス、外から来たんだったら丁度いい。外の様子はどうなってる。表彰式とか、俺たちを閉じ込めて開催できないだろ」
「今も配信されておるぞ。貴様の影武者を用意しておったようだ。似ても似つかない、不出来な操り人形なんて……見るに堪えんがな」
「俺の影武者……そいつは用意周到なこったな」
まるで最初からこれを狙っていたかのような動きだ。
「表彰式とやらで警戒が薄れたから妾が乗り込んでこられた故、問題ばかりというわけでもないが……」
「そういや、他国の王女が王城に乗り込むとか、大丈夫なのか?」
「大丈夫ではなかろう」
「自覚あったんだ!?」
それを分かってて突っ込んで来たのかよ。やっぱ俺には理解できねえわ。
「これを口実にすれば戦争の火種にもなろうな。……このまま王が変わらなければ」
「……それって」
「厄災を討伐した最も新しい英雄を監禁する王なぞ、貴様から引き摺り下ろすのだろう? 厄災を倒し、街を防衛した。功績としては十分すぎるだろうな」
王の悪事を暴けば民の信頼は落ちる。そして、次に王になるのは聖女と呼ばれたナナだ。
そうなれば、ナナがエリザベスの蛮行を見逃すだけで全てが穏便に収まる。
「本当に、度胸がすげえな王女様! これで王女に相応しくないとか言われてたのが意味わかんねえ」
側近には王に相応しくないなんて言われてたけど、この度胸と行動力があればなんでもできるだろ。
「そんなことより、貴様は早く立ち上がれ。ずっとこのまま座ってるわけにもいかんだろう。――こんなふざけた表彰式なぞ、壊してやらんとな」
「ああ――そうだな!」
俺たちは牢屋から出ると、表彰式が行われている会場に向かった。