第5話 「助けた子は王女様でした」
「なんだ、これ……剣……なのか」
俺の手の中に現れたのは俺の背丈に近いほどの大剣。刃の周囲は淡い光で満ちている。
俺にこんな能力はない……はずだ。だって、転移してから神様と出会っても、チート能力は与えられなかったのだから。
原因は分からない。理屈も分からない。だけど、結果だけは、分かる。この剣を使えばこの状況を打破できるのだと、心が言っている。
「アリシア、ここは俺に任せろ!」
「……カイリ? その剣は?」
「知らない! けど、これを使えば必ず勝てる!」
大剣は見た目ほど重くない。筋トレなんて一回もしたことがないけど、十分振り回せる。
敵も大剣が突然出てきたことに驚いている。その隙を突いて俺は大剣を横向きに振るう。剣の軌跡に沿って衝撃波と風圧が発生する。その衝撃は木々をへし折り、敵を吹き飛ばす。
「嘘だろ……」
自分でやっておきながら、あまりの威力に驚きを隠せない。俺の目の前から地面事えぐり飛ばされ、もはや敵の姿が視認できない。
「カイリ様、すごいです! あんな能力を隠してたんですね!」
俺の背中に隠れていたナナが飛び出し、ぱぁっと笑顔を浮かべる。いつも通りの可愛らしい笑顔だったけれど、今の俺は別のことに意識を取られていた。
「これが、俺の力……?」
剣の柄から手を離すと、空気中に溶けるように消えていく。
『まさか、今覚醒するとは……』
「あ、神様今までどこ行ってたんだよ。全く喋らなくなっちまって」
『ちょっと驚いていただけだよ。まさかキミが、その力を使えるようになるとはね』
「神様、この剣のこと、知ってるのか!?」
『もちろん知ってるさ。だってそれ、ボクの力だしね』
「ボクの力……ってことはつまり、神様の!?」
『そうだよ。異世界に来てなんの能力もないってキミは嘆いていたけど、本当はあったんだ。ボクの力を宿す――神の使徒の権能が』
「俺が……神の、使徒……?」
『神の使徒に与えられた神の武器――神器を用いる神の代行者。今のカイリを表すとしたら、そういうことだ」
いまいち実感が湧かないけど、神様がそう言うんだったら間違いないんだと思う。
「ところでなんで神様はこの力のことを教えてくれなかったんだ? もっと早く教えてくれれば良かったのに。もしかして、教えられないほどやることがいっぱいだったのか?」
『ボクはボクで色々とやることがあるんだ。女の子の事情を詮索する男はモテないよ』
「女だったんだ……」
性別不詳だった神様の性別がようやく判明した。いや、これまでもそれっぽいなとは思ってたけど。
「また黙っちまった……この力についてもっと聞きたかったんだけどな……」
「……あのー、カイリ様?」
俺が一人で考え込んでいると、ナナが俺の顔を覗き込んでくる。
「一体、どちら様と会話されてるんでしょうか……」
「あぁ、ごめん。何でもないんだ。気にしないでくれ」
とりあえず誤魔化しておく。俺には神様がついてる、なんて言って信じてくれないだろうしな……
「カイリ、すっごく強いんだね。その力があるならパーティーから追放もされなかったんだろうけど」
「俺も自分にこんな力があるのは知らなかったし。それに、もし俺が昔から力を持っていてもそれをあいつらのために使おうとはしなかったと思う」
そこまで俺もお人よしじゃない。三十を超える敵を一振りで掃討できる武器を持っているなら一人で冒険者をやっていける。わざわざあいつらと同じパーティーにいる理由なんてない。
「それで、これからどうしよっか」
「とりあえず危機は去ったし、のんびり生活してもいい気がする。それに、敵が来たらまたぶっ飛ばせばいいんだし」
「でも、カイリの力、なんで発現したかも分からないでしょ? 意図的に発動できるものなの?」
「……やってみるか」
さっき大剣を発言させた時と同じ言葉を口にする。
「限定解除」
「うわ、また出てきた」
またしても大剣が出現する。手を離すと、また宙に消えていく。
「カイリ様すごいです! 流石はわたしの王子様です~!」
ナナの顔の輝きが止まらない。そこまで言われて悪い気はしないけど、正体不明の力を使うことに少し不安がある。
「その限定解除ってどういう意味なんなの? なんで、限定なんだろう」
「俺もよく分かんねえんだよな……上手く言語化できないけど、心の底から言葉が出てくるっていうか……口が勝手に動くというか……」
どうして「限定」で、なにを「解除」しているのか、全く分からない。
「今は考えるのはやめておこう。どうせ考えても分からないしな。それより、今後の方針を決めねえと……」
「それなんですけど、わたしからいいですか?」
ナナが小さな手をめいっぱい上げて主張してくる。
「わたし、一年前からお父様の私兵に追いかけられてるんです。カイリ様が追い払ってくださったのも、お父様の私兵なんです」
「私兵って、ナナのお父さんは結構偉い人なのか?」
「わたしのお父様は……この国の――アウスト王国の国王です」