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第47話 「表彰式の前の」

 コアが散った直後、厄災の肉体がチリになって消えていく。


「終わった……のか」


「やりましたね、カイリ様! 流石です!」


「やっぱルイオリちゃんが見込んだだけはあるね〜! とうとう厄災まで倒しちゃうなんて!」


 正直まだ実感は湧いてない。けど……こうして喜んでるナナとイオリを見ていると、達成感が出てくる。


「カイリ殿……ありがとう。本当に、心から。貴方がいなければ厄災の討伐を果たすことはできなかった」


「そんなことないよ。きっと、フィオナの熱意があれば、近いうちに厄災を倒せてたと思うよ。……でも、俺がフィオナの力になれたのは良かったよ」




「――だって、フィオナがそんなに嬉しそうに笑ってるところを見れたんだから」


「私が……笑ってる……?」


 自分でも気づいてないとは思わなかった。でも、俺の目には口角の上がったフィオナの顔がはっきり見える。


 家族を殺され、国を滅ぼされたフィオナが、元凶を倒すところを見れたんだ。そりゃ笑顔くらい浮かんでも不思議じゃない。


「――は。ははっ、そうか……私は、嬉しいんだな」


「……」


「何度も、夢見てきた。国を滅ぼされた時のことを。憎しみだけに駆られてひたすら魔物を殺していた過去を。……ようやく、報われた」


 憑き物がとれたような顔、という言葉が一番よく似合う。

 今のフィオナの表情には、憎しみも苦しみもなくて、無邪気な少女の顔だけが、そこにあった。


「ありがとう、カイリ。私を――救ってくれて」



 どうやら厄災が倒されたと同時に、取り巻きの魔物も消滅していたらしい。

 討伐隊にも少なくない犠牲者は出たが、壊滅するのは防げたみたいだった。


「信じられねえよな。国から追われる身だった俺たちが王城に招待されるなんてさ」


 ――そう、俺たちは今、王城の客室にいた。


「そりゃ世界を脅かす厄災を倒したんだから、王様から報酬を貰ってもおかしくないでしょ〜。なんでイオリちゃんまで呼ばれたのかは分かんないけど。倒したのはカイリじゃん」


「別に俺一人の力じゃねえからな。俺たちのパーティーは誰一人かけちゃいけなかったんだ。みんな報酬を受け取る権利はあるよ」


 もちろん、俺を助けてくれたのはパーティーメンバーだけじゃない。討伐隊の人達が取り巻きを止めてくれたからってのもあるし。

 本来なら全員が称えられるべきなんだけど、流石に全員で王城に来たらそれはそれで迷惑だしな。


「表彰式は配信で国全体に放送するらしいよ。みんな有名人になっちゃうね」


 そんな話をしていると、メイドさんが入ってくる。


「王様から、お客様へのおもてなしということで、お菓子を提供するように命じられ、参じました」


 メイドさんの複数人が、机に色んなお菓子を置く。ケーキにクッキー、マカロン。まだまだいっぱいあるし、全員で分けても食べきれなさそうだ。


「もてなし方がすごいね……じゃあ、まずは私からもらっちゃおうかな」


 アリシアがケーキを取り分けて口に運ぶ。


 アリシアをここに連れてくるかは悩んだけど(また閉じ込めておくかって一瞬考えた)、アリシアの本性を知っているのは俺たちだけ。つまり、なにも知らない他の人にアリシアを閉じ込めてるのがバレたら信用も落ちる。


 それに……厄災戦の時もアリシアは特に何もしなかった。だからひとまず安心だと思って連れてきたのだ。王城で派手に動くこともできないだろうし。


「……」


「どうしたんだ? アリシア」


 難しい顔をしてケーキを食べているアリシアに聞くが、返事が返ってこない。口に合わなかったのかと思ってると、ようやくアリシアが返事をしてくれる。


「…………ううん、なんでもないよ。美味しすぎて言葉にできなかっただけ。ぜひみんなも食べてみてよ! 本当にすっごく、すぅーっごく、美味しいからさ!」


「アリシアさんがそんなに言うなら食べてみたいですね」


「むしろ俺はアリシアがそこまで言ってるのちょっと怖いんだけど……」


 とはいえ、せっかく出されたものに一切手を出さないのも気が引ける。俺たちはそれぞれ小皿に分けてケーキを頬張る。


 それからしばらく待って、王様の使いから表彰式の連絡を待っているが……


「全然、来ねえな」


「忘れてる……なんて、ないですよね……」


 カナが不安そうに俺を見つめる。忘れてる、なんてことないはずなんだけど。


 ――その瞬間、俺の全身から力が抜けるような感覚がした。座っていることも難しくてソファーに寝転がる。


「みん、な……」


 メンバーの方を見ると、全員寝転がっている。そして、俺は強烈な睡魔に襲われた。


 俺たちが王城に来てから口にしたのはお菓子類だけ。つまり……あの中に、睡眠薬かなんかが……


 その思考が結論に至ることはなく。俺の視界は、完全に真っ暗になった。







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