第44話 「第二神器」
ドラゴン。日本では完全に空想の生き物だったけど、ここは異世界。いてもなんら不思議じゃない。
大きな羽を広げ、悠々と飛ぶ姿は俺たちを敵とも思っていなさそうだ。
「どうやって攻撃を当てんだよ……」
離れたところに攻撃を当てること自体はできる。ウロボロスを討伐した時と同じことをすればいいだけだ。
けど、魔物を生み出す、魔物のボスを相手に通じるとは思えない。
「けど、やらない理由もないな」
「カイリ殿、なにか策があるのか?」
「策はねえけど、やれることはある」
俺は意識を集中させる。
「――限定解除」
手の中にデュランダルは出現する。そしてそれを思い切り振ると、衝撃波と風圧が厄災に向かって飛ぶ。
「まあ、効かねえよな」
鱗一枚剥がすことはできなかった。
「カイリ殿、直接叩けば傷はつけられそうか? 地上にいるならともかく……剣が届かぬ場所の敵を斬ることはできない」
「傷はつけられるはずなんだけど……そもそも近づけんのか?」
「かなり強引だが……私が剣を振る。そして、カイリ殿はタイミングを合わせて私の剣を足場に飛んでくれ」
フィオナの力と俺の跳躍力を合わせて空高く飛ぶ。
確かに強引だけど……今のところ、それしか方法がない以上、やるしかない。
「行くぞ!」
「おう!」
フィオナの剣の横腹に足をかけ、蹴って厄災のところに向かう。
「うおおおおお!」
デュランダルを振り、厄災の肌に攻撃する。
厄災の身体から血が噴き出る。傷が付いたことに達成感を感じたのも束の間、厄災が雄叫びを上げる。
「――ッ!」
地上に落下して、上空を見上げると厄災から黒い霧が噴出してくる。
霧は地上に落ちた途端、集まって形を作る。
魔物だった。厄災から出た霧が集まって、魔物の形になった。
「カイリ様! お怪我はありませんか!」
「大丈夫だ。それより……」
霧から生まれた魔物が数十匹。俺たちを囲んで睨んでいる。
「……全く、なにをしとるんだ、貴様らは」
俺とフィオナを囲む魔物が一斉に切り刻まれる。
エリザベスが俺たちの援助に来てくれたのだ。
「ふん、妾を見下ろすなど、魔物の癖に不遜な奴だ。カイリ……貴様、早う打ち落として参れ」
「できたら苦労してねえよ!」
相変わらず無茶振りがひどい。どうやって落とせばいいんだ。
「フィオナ! またさっきのやつを――」
「すまない、カイリ殿……」
フィオナが腕に傷を負っていた。
「どうしたんだ、その傷!? ナナ! フィオナを治療してやってくれ!」
「すみません、フィオナさん、今治しますね!」
ナナがスキルで
「なにがあったんだ? どこかから不意打ちされたのか?」
まさかウロボロスの時みたいに、身代わりがいたりするのだろうか。
「いや、これはただの自滅なんだ。私のスキルは――『代償』。力を得る代わりに、それ相応の傷を負う。さっき、カイリ殿を飛ばした時の代償で、怪我を負ってしまった……」
使い辛い能力だ。だけど、フィオナの力がないと厄災に傷をつけることができなかった。
「随分深い傷です……すぐには治らないかもしれません……」
「片腕は使い物にならなくなっても、スキルを使えば無理やり動かせる。また、寿命を代償に使えば……」
「またってなんだ!? そんなことしてたのかよお前!?」
「騎士団長になるために、何度もスキルを行使してきた。寿命を代償とする時だってあったさ。そうすれば、私は誰にも負けない力を手に入れることができる」
「……駄目だ! そんなことをしたら、フィオナの命が!」
「でも、こうしないとただの足手まといに……っ!」
「俺は誰も傷ついて欲しくないんだよ……! 誰も悲しまないように、誰も苦しまないように……そのために、俺はここまで来たんだ!」
ナナを守りたい。アリシアを助けたい。カナやシャル、ソニアを救いたい。そうやって目の前にいる人を救いたくて進んできた道だ。
それなのに、フィオナだけ見殺しにするなんて、できるはずがない。
「カイリ! 討伐隊の方に魔物が大量発生してる! 討伐隊の人の命が……どんどん減っていってるの!」
アリシアがサーチで討伐隊の様子を確認してくれていた。
早く厄災を倒さないと……取り返しがつかなくなる。
「カイリ殿……一つだけ、我儘を言ってもいいだろうか……」
厄災が追加で魔物を生み出している。目に見えるだけで二十匹ほど。
フィオナの回復は間に合わない。俺が倒すこともできるが……絶対に打ち漏らさないとまでは言い切れない。
「カイリ殿……私の悲願を、厄災の討伐を……果たしてほしい」
フィオナの瞳から、涙が一筋流れる。
「私を――『救ってくれ』!」
その瞬間、俺の内から力が湧き出るのを感じた。
なにをすれば良いのか理解できる。俺が紡ぐべき言葉が、頭に浮かぶ。
「――限定解除」
一度目は、ナナから助けを求められた時。そして二度目は、今。
「第二神器、解放――」
俺の手からデュランダルが消え、次なる武器が現れる。
――弓だ。俺の手には弓が握られている。
俺が意識を集中させると、矢が生成される。
そして、矢を上空に放つと、分裂して雨のように光の矢が降り注ぐ――