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第38話 「約束の場所」

「――限定解除」


 俺はデュランダルの感覚を確かめて、猪と向き合う。


「こっちはウロボロスも倒してんだ。今更猪程度には負けてやれねえな」


 猪は巨体を思い切り突っ込ませてくる。普通の人間なら間違いなく致命傷になる攻撃だ。


 だけど、俺は違う。


「カイリ様、頑張ってください!」


「はぁ、結果の分かってる戦いほどつまんないものはないよね。もうちょっと強そうなのが来たら私ももっと楽しめたんだけど」


 ナナもアリシアも完全に観客になっている。


 俺が死なないって信じてるからこそなんだろうけどな。


「はぁっ!」


 俺がデュランダルを振るうと、勢いよく突進してくる猪を軽く吹き飛ばす。


 剥き出した牙は折れ、たった一回の攻撃でダウンしてしまった。


「ほら、これでいいだろ」


 もしかして、今の猪はこの森の守り神だったりしないかな。

 ただの猪にしては大きいし、妖精に喚ばれるのも気になる。


 重要な動物だったら倒したことを怒られたりすんのかな。でも、倒せって言ったのは妖精の方だしなぁ……


『今の力……』


『英雄様じゃない』


『なんでこの力があるの? なんで? どうして?』


『殺さないで』


『痛めつけないで』


『酷いことしないで』


『その剣を消して』


 妖精が口々に俺に伝えてくる。さっきまでの楽しそうな雰囲気が消え、怯えているのが伝わってくる。


「倒せって言ったり酷いことするなって言ったり、わけわかんねえ」


 俺はデュランダルを消して妖精に歩み寄る。


『なにが目的?』


『きっと侵略しに来たんだよ』


『きっと復讐しに来たんだよ』


『もう英雄様もいないのに』


『嫌な匂いだと思ってたんだ』


「待て待て待て! 侵略も復讐も興味ねえよ! 俺はただ、この森にあるっていう『魂喰い』を探しに来ただけなんだって!」


 このまま妖精に嫌われたんじゃ一巻の終わりだ。

 必死の弁明に少しだけ妖精の怯えもおさまる。


『なんでその力を持ってるのに、ソレを求めるの?』


『もしかして、勘違い?』


『でも危ないよ』


『でも怖いよ』


『約束は、守らなきゃ』


「怖いだの危ないだの……そもそも、俺の魂を見てんじゃねえのか、お前らは。だったらここには悪人はいないって分かる筈なんだけど。……アリシア以外」


「そろそろその扱いにも慣れてきた気がするよ」


 しまった……落ち担当にしてるのがバレた……! これからはもっと巧妙にしないと。


『確かに、悪人ではないよね』


『懐かしい匂いがするよ』


『英雄様の匂いがするよ』


『僕たちの大好きな匂いだ』


『信じてみよう』


『『『そうしよう』』』


 だんだん小学生の演劇でも見てる気分になってきた。


『案内するよ。ついてきて』


「ようやくだな。助かるよ」


 仄かに光を発しながら前を飛んでいく妖精の後を追う。すると、大きな泉が見えた。


「すっげえ……」


 神秘的、という言葉がこれ以上に似合う場所もないだろう。空から降って来る光を泉が反射して、キラキラ光っている。


『あそこだよ』


『僕たちの約束』


『ずっと守ってねって、約束』


 妖精たちの進む先には細長いクリスタル。その中に一本の剣が収納されていた。


「これが、英雄の武器か」


「どうやって取り出せばいいんでしょう」


『指先で触れるだけで良いんだよ』


『認められれば開くよ』


『本当の英雄様なら出来るよ』


 俺は勇気を出して、泉に入り、クリスタルに触れる。そして――


 ――眩い光が、辺りを覆う。目を開けるとそこには、「魂喰い」が、握られていた。


『やったあ、やったあ』


『本物の英雄様だ』


『嘘じゃなかったんだ!』


「ありがとな。これで、厄災を倒す目途が立ったよ。なんかお礼ができればいいんだけど」


『お礼? だったら、見せたいものがあるんだ』


『英雄様が戻ってきたら見せようって決めてたもんね』


「この武器以外にもなんかあるんだな。思ったより早く手に入ったし、ちょっと寄り道するくらい大丈夫だよな」


「そうだね。あんまりにもスムーズだったから、私のサーチも妖精を見つけるくらいにしか役に立たなかった~。ちょっと悔しいかも」


「それだけで十分だよ。気配がなさ過ぎてアリシアが言ってくれないと気づかなかったし」


 やっぱりサーチ能力って便利だよな……なんて考えながら妖精の後ろを歩く。


 魂喰いなんて名前だからもっと禍々しい見た目をしているのかと思ってたけど、案外普通だ。かっこいい短剣って感じ。


『着いたよ』


『着いた、着いた』


「これは……祠か?」


 木々の中に紛れ込むように建てられた建造物。それを言い表すなら「祠」だった。


「カイリ様、この祠……見たことあります。あれは確か、お父様の書庫で……」


「知ってるのか!? ナナ、これはなんなんだ?」


「この祠は、間違いなく――」


 ナナは祠を食い入るように見つめて、言った。



「――千年前、世界を脅かした邪神を封印した祠です!」

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