第34話 「パートナー」
買い物に向かおうとするメンバーたちを呼び止めて、俺はナナを引っ張って来る。
「えっと、カイリ様どうかされましたか?」
「ナナってさ、『魂喰い』って名前に聞き覚えはないか?」
「あぁ、それなら知ってますよ。かつて邪神を倒した英雄たちの武器ですね」
「千年前の話だっけか」
「ですです。『魂喰い』によって邪神の魂を壊すには至ったものの、その肉体を完全に消滅させることはできず、『封印の祠』に封印したという伝説が残っています」
「かつての英雄の装備……か。ロマンがあるな」
こういうのがあると異世界に来たって感じするよね。
「じゃあその封印の祠ってところにいけば邪神がまだいるのか」
「どうでしょう。封印の祠に入った人はいないですし、伝説を直接目にした人はいないので。ところで、急にどうしたんですか? そんな大昔の武器についてお話しされるなんて」
「実は、『厄災』を倒すのに必要っぽくてな。千年前の武器なんて本当に存在するかも分からないんだけど……」
「伝説によると、魂喰いはその強力な力ゆえに、アルマジール大森林の妖精に託したそうですよ。どうしても必要なのでしたら、行ってみますか? この国の地理は把握してるので案内できると思いますよ」
「そうしてくれると助かるよ。みんなで行くと数が多すぎるし、できれば少ない人数で行きたいよな……」
多かったら人海戦術もできるけど、合流するのに時間かかったりするし。
「とはいえ、アルマジール大森林までの道は知っていますが、その中のどこにあるかまでは知らないので、探すのが大変そうです……」
「そうだな。物を探すことに長けてるスキルなんて――」
思い浮かぶ人物がいた。「探す」ことに関して便利なスキルを持っている人物。
私情を抜きにしたら、その人物に頼むのが一番だ。
「いくら準備期間があるって言ったって、早めに終わらせとくに越したことはないからな。……はぁ、仕方ねえ」
◇
「おかえり。また来てねって言ったけど……いくらなんでも来るの早すぎない?」
「これだから来るの嫌だったんだよ」
俺が誘いに来たのはアリシアだ。アリシアの持つサーチ能力は優れている。
俺をわざと窮地に向かわせたのは、逆にアリシアのサーチ能力の優秀さを示してる。
「ってことで、厄災を倒すために武器を取りに行きたいんだ。そこでアリシアのサーチを使ってほしい」
「どういうわけかは知らないけど、カイリがそう言うなら私はいくらでも請け負うよ。でも、良いの?」
「なにがだ?」
「もうすっかりカイリに嫌われちゃったと思ってから……私を出すなんて思わなかったの。カイリは私が嘘吐いたりするって思ってないの?」
「嘘は吐くとは思ってるよ。実際、何度か騙されてるしな。……でも、俺の邪魔はしないってことも知ってる」
「そうだっけ?」
「なんだかんだ、アリシアは道中で誘導してくることはあっても、俺が目的地につけるようにはしてくれてただろ。キマイラのダンジョンも、ウロボロスのダンジョンも、ちゃんとボス部屋まで案内してくれたし」
アリシアはただ俺に死んでほしいわけじゃない。
あくまで自分は最善を尽くした(多少の誘導はあり)。それでも俺が死んでしまった、という状況が作りたいんだ。
だからダンジョンで一生彷徨わせて死なせるとか、殺さない程度に傷つけて放置とか、そういう露骨な行動はしない。
それだとアリシア自身が手を下してるのと同じだし、気持ちよくはなれないんだろう。
「こんな根拠で信じるのも嫌だけど……アリシアは過程を邪魔することはあっても結果にまで手を加えるようなことはしない。そういうところは、信用してる」
「そっか。……そこまで言われちゃ、仕方がないよね」
俺が信用するって言ったのが信じられないのか、まだ驚いてるみたいだけど、受け入れてくれた。
「私のサーチはどんな物でも人でも見つけられる。安心して、今回は、私もできる限り欲求を我慢するからさ」
「……ちょっと信用無くなってきたかも」
「なんで!?」
俺はアリシアを牢屋から出してあげる。
「――アリシア。俺は死なないよ」
「だろうね。私もカイリが死ぬとこ、中々想像できない」
「だからまあ、最悪俺だけだったら殺そうとしてもいいよ。他の人を巻き込もうとしたら許さないけど」
どんな魔物を連れてこられても、俺は自分の身を守る分には問題ないと思う。
伊達に「神の使徒」を名乗ってるわけじゃないからな。
「アリシアがどんだけ窮地を作ったとしても……俺が全部ぶっ壊してやる。それで、アリシアにもっと別の幸せを感じられるように頑張るよ。悲しいだけがアリシアの喜びじゃないんだってことをさ」
アリシアが変わるまで、俺は死ぬわけにはいかない。
「ご飯が美味しいとか、誰かと話すのが楽しいとか、そういうことで幸せを感じられるように、一緒に乗り越えていこう」
時間こそかかるかもしれない。もしかしたら、俺も死ぬ可能性はある。
それでも……見捨てられないから。今回みたいに仕方がないから外に出す、なんてこと、あんまりやりたくない。
できることなら、一緒に楽しい思い出を作りたいから外に出してあげたいと思いたいんだ。




