第31話 「第二の鍵」
「えっと、あの……どちら様でしょうか?」
「なに? 妾のことを知らぬというのか?」
なんで当たり前に知ってると思ってんだ……
「妾はイグリシア王国、第一王女エリザベスであるぞ」
「えーっと、イグリシア王国ってどこだ?」
俺が聞いても一切ピンとこない。なんかカッコ良さそうってのは分かるけど。
「カイリ様カイリ様。イグリシア王国はアウスト王国の隣国で、アウスト王国より大きい国です。特に配信に力を入れてるみたいですよ」
「そうなのか……知らなかった」
ナナが耳元で補足してくれるのがありがたい。
「それで、イグ……なんとか王国の王女がなんでこんなとこにいるんだよ」
「なんとかではない。イグリシアである」
「そこはそんなに重要じゃないって。王女が戦場の真っ只中にいたら危ないだろ」
「妾がこの程度の魔物に負けると? ふん、くだらぬ」
エリザベスはどこかから扇を取り出すと、広場に群がる魔物に向かって扇ぐ。
扇から空気が押し出され、真空波が発生し、魔物をことごとく斬り刻む。
「これが、王女のスキルなのか……」
「スキルだと? この程度、スキルを使うまでもない。今のは妾の技量よ」
「どうやったら扇で真空波出せんだよ!?」
異世界の非常識っぷりには慣れたと思ったけど全然そんなことはなかった。
「広場のはあらかた片付けたか。敵国ではないとはいえ……雑魚を相手にここまで苦戦しているとアウスト王国の未来を憂いてしまうな」
「確かに、一匹一匹はそんなだけど、数がかなり多いだろ。苦戦してるのも仕方ねえって。避難も終わってるか分かんねえし」
一応、王国の兵士のフォローもしておく。
よくよく考えたら王国の兵士の味方になるのもおかしな話だけどな。
俺とナナ、まだ王国から追われる身だし。
「どちらにせよ、妾には関係ない」
「……魔物を討伐してくれたことには感謝するよ。ありがとな」
「ほう。殊勝な心がけじゃ」
どうやら機嫌を取ることに成功したらしい。
「貴様、どうにも妾の琴線に触れる。実力もあると見た。見目も悪くない。そしてなにより……」
「な、なんだよ……顔が近いって」
エリザベスが俺の顔を覗き込んでくる。
「――これが、運命というやつか」
「え?」
「妾がこの国に来たのも偶然ではなかったということよな。貴様がいるから……妾が喚ばれたのだ」
運命。その単語はナナと初めて出会った時にも言われた。
どういうことだ? なんで初対面でなにも知らない人間に運命を感じるんだ?
しかも、ナナもエリザベスも王族。
「王女様! こんなところにおられましたか。危険ですので早く避難致しましょう」
俺が悩んでいると、青年がエリザベスに声をかける。
「危険だと? 妾の身より、自らを案じた方が良いぞ」
「私めはいくら傷ついても良いのです。王女様には変わりはいませんので」
「貴様の意見なぞ知らん。妾の発言こそ真である」
「……やはり王女様は、王に相応しくない」
うん、多分この人はエリザベスのお付きなんだろうけど、言いたいことは分かる。
こんなにわがままな発言する人が王になったら反乱が起きそうだ。
「そこな少年よ。名はなんと言う」
「カイリだよ」
「そうか、カイリ……妾の配偶者にならぬか?」
吹き出しかけた。いくらなんでも急すぎるだろ!?
「カイリ様に近づかないでください!」
ナナに腕を引っ張られる。
ナナの力強っ! 腕痛え!
「妾の誘いを断るとは……随分な態度よな」
「俺はなにもしてな――っ!」
「カイリ様も嫌だって言ってました!!」
言ってはねえよ!? いや、受け入れようとも思ってないけどさ!
「さっきから貴様らの関係性がよく分からぬ。友人より深く、かと言って恋仲にも見えぬ」
「わたしとカイリ様は……えっと……婚約者です!」
なに言ってんのこの子!?
十歳くらいの女の子と婚約結んでるとかとんでもない誤解が生まれるんだけど!?
「なるほど、既に約定を結んでいたということか」
「なんで納得してんの!?」
なんだよこの状況! 俺が一番当事者のはずなのになにも理解できねえ!
「だが、妾は略奪愛も好みとしておるぞ。どうじゃ、妾と共に来ないか?」
「いかねえよ!」
ナナの視線が痛い。ついでに腕も痛い。ずっと腕を掴まれてるから血とか止まってそう。
「王女様、お遊びはその辺りで……」
執事がエリザベスを止めてくれる。
助かった……
「妾も興が乗り過ぎた。あまりからかい過ぎて亀裂を起こしてもかなわぬからな」
エリザベスは俺たちに背を向ける。去っていきそうな雰囲気を感じた俺はエリザベスを呼び止める。
「帰る前に、ちょっと待ってくれないか!」
俺の言葉にエリザベスは足を止め、振り返る。
無視されたらどうしようかと思ったけど、そんなことはなかった。
「街の魔物を一緒に倒してくれねえか。そんだけ力があったら頼りになるよ」
「断る」
「駄目かよ!?」
流れでいけそうだったんだけどなぁ……
「自国の問題は自国で片付けよ。それができなければ、滅ぶのみよ」
「厳しいな。言ってることは真っ当なんだけどさ」
「分かってるなら良い。異邦の民の力を、あてにするでないぞ」
エリザベスはそう言って去っていく。
「なんか、特徴的な方でしたね……」
「エリザベスも運命だとかなんとか言ってたけど、王族ってなんかそういうのを感じるもんなのか?」
「わたしは……いえ、そんな話は聞いたことがないです。きっと偶然ですよ」
「そうなのか? まあいいや、他のところにいる人たちも助けて回らないとな」




