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第29話 「スタンピード」

 街に向かって魔物の群れが走ってくる。

 兵士は住民を避難させるので手一杯で、冒険者もダンジョンに行ってる人が多く、街に残っている数は少ない。


「キマイラのダンジョンに行ってから、休む暇もねえ……っ!」


 体力的には疲れているが色々起こり過ぎてメンタル的な疲労がすごい。


 泣き言も言ってられないからやるしかないんだけど……


「イオリ! シャルについてやってくれ! シャルの防御力なら大抵の魔物は抑えられる!」


 そういえば、シャルはウロボロスによって鎧を溶かされていたけど、ナナのスキルで治ったみたいだった。


 シャルの鎧と盾であれば、魔物を受け止め、時間を稼ぐのは簡単だ。


「限定解除」


 俺はデュランダルを呼び出し、魔物を蹴散らしていく


 一匹一匹はそこまで強い魔物じゃない。けど……


「数が多すぎる……」


 街の外の平原を埋め尽くさんばかりの魔物。

 数える気にもならないけど、千は余裕で超えていそうだ。


「これまで、厄災が生み出した魔物の数を超えるほどの量が……どうして、今になってここまで魔物を生み出してるんだ」


 シャルは魔物を弾き返しつつ、そんな疑問を呟いた。


 ……確かに、不自然だ。どうして今なんだ。


 本気を出せば街一つ滅ぼせそうなほど魔物を生み出せるなら最初からすれば良い。


「って、考えてる場合じゃねえな」


 取りこぼした魔物が街へ向かっていく。


 圧倒的に数が足りない。俺を狙ってくるなら余裕で対処できるのに、魔物は俺を無視して街へ向かっている。


 ナナは治療要因だし、イオリも空間把握能力は高いけど、戦闘能力が高い訳じゃない。


 俺とシャルだけではどうにもならない……


「後ろに来たのはこっちに任せて!」


 俺の背後から声が聞こえる。声の主はソニアだった。

 黒髪ロングの眼鏡っ子。日本にいそうな容姿は、異世界ではよく目立つ。


 元の世界の雰囲気を感じるからソニアとはどことなく合いそうだと思っていた。


 ソニアは両手をかざすと、、手のひらから巨大な火の玉を生み出す。


「すっげえ……」


 いつもハルトが先陣をきっていたからまともにソニアのスキルを見るのは初めてだった。


 ソニアは魔法のように火の玉、水柱、竜巻を自在に生み出し、魔物を倒していく。


「思ってたよりハルトのパーティーって、バランス良かったんだな」


 性格は最悪だったけど、バランス感覚は良かったみたいだ。


 前衛のシャル、後衛のソニア、索敵のアリシア。それぞれにちゃんと役割を与えている辺り、リーダー適性は高かったのかもしれない。


 いなくなってしまった今となっては、考えても意味ないことだけど。


 しばらく魔物を倒し続けていると、ピタリと魔物の動きが止まった。


「魔物が、退いていく……」


「流石に俺たちを倒せないって分かったのかもな」


 一時間くらいずっと戦ってたかもしれない。

 流石に俺もしんどくなってきた。


「一旦街に戻ろう」


「そうですね」


 長い戦いで傷ついた仲間をナナが癒していた。


 特にシャルはウロボロスにやられたばかりなのに、今回も頑張ってくれていた。


 やっぱり、負い目とかあるからなのかな。


 みんなの傷が治ったのを確認してから街に戻る。


 住民の避難も完了していつも通りの平和な街に帰る――


「嘘、だろ……」


 街に戻った俺たちを迎えたのは、平和な日常なんかじゃなかった。


 街に、魔物が侵入し、あちこちで戦いの音が響いていた。

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