第28話 「厄災の片鱗」
……なんで?
正直俺は自分の本心を話していただけだから、求婚をしてくる意味がわからなかった。
「駄目だよ! カイリはイオリちゃんのアイドルなんですから、スキャンダルは駄目! イオリちゃんは例外だけど!」
「そうですよ! カイリ様はわたしと共に王座に着くんです! その後は……ちょっと、恥ずかしいですけど……」
なんか俺を置いて盛り上がってる!?
「ちょ、ちょっと待てよ! 今はそういう話じゃないだろ。それとシャル、結婚とかはちゃんと好きになった相手にしてあげてくれ」
「……すまない。私の言葉で場を混乱させてしまった。この責任は腹を切って」
「切らなくていいから!」
覚悟が決まってるのは良いことだけど?一緒にパーティー組もうと誘った直後に腹を切ろうとするな。武士かよ。
「とにかく、これからの話だ。俺……正確にはナナだけど、名を上げて王座を奪おうと思ってる。それを為すために強い魔物とか倒していくのが手っ取り早いんだけど、なにか知ってることはないか?」
「あ、あの……」
申し訳なさそうに手を挙げたのはカナだった。
以前、ハルトのパーティーにいた時みたいな生意気な言動が消えているどころか、コミュ障へと変貌を遂げていた。
「強い、魔物って言えば……『厄災』とかじゃ、ないでしょうか……」
「厄災? あ、そういえば受付の人も言ってたな。厄災の影響がどうのこうのって。厄災って自然災害みたいなもんじゃなかったのか」
「そ、そうなんです……厄災は魔物、なんですけど……姿形も、分かってないんです……」
「そんなことあんのか? 姿形分からないってどういうことだよ」
「……ごめんなさい!」
俺の問いにカナは土下座すて謝罪する。
そんなことをして欲しかった訳じゃないんだけど……
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい役立たずでごめんなさい無能でごめんなさい馬鹿でごめんなさい殴らないでください捨てないでください嫌わないでください見捨てないでください」
「殴らないし捨てないし嫌わないし……あとなんだっけ? まあとにかく、そんなに謝らなくて良いよ。言い方がキツかったのは謝るよ。カナを責める気はないんだ」
新しくパーティーに加わった組も癖強い説が出てきたな。
まともな人……まともな人をくれ……っ!
残った一人、ソニアはなにを言うでもなく、ただ俺を見つめている。
「で、その厄災ってのは具体的にどういう存在なんだ? 名前からして凄そうってのは分かるんだけど……」
「厄災は魔物を生み出している。厄災の一番の被害といえばそれだろうな」
「魔物を生み出す……なるほどな。確かにそれは脅威だな」
「そう、だからこそ、国も厄災討伐を目指し――」
「シャル、ちょっと待ってくれ。なんだか外が騒がしい気がする」
神の使徒として覚醒したおかげか、聴覚も良くなっている。窓を閉じた部屋の中にいるのに外の様子が窺えてしまう。
俺は窓を開けると、外を見る。
「――街に魔物がやってきた! 非戦闘員は直ちに避難しろ!」
兵士の叫ぶ声が聞こえる。
街に魔物がいる? なにを言っているんだ?
「なにが起こってる……? 魔物はダンジョンにいるんじゃないのか……?」
「厄災はダンジョンの中にいない。だから、厄災によって生み出された魔物は、人の住処を狙って現れることもあるんだ」
知らなかった。俺はダンジョンの外で魔物と出会ったことはないけど、単に運が良かっただけなのか。
「仕方ねえ! 俺たちも出るぞ!」
どこであろうと魔物が出たなら倒さなきゃならない。
俺たちは宿から飛び出した。