第12話 「決闘と書いてデュエルと読む」
イレギュラーを乗り越えた俺たちは順調にダンジョンを攻略していった。
ダンジョンボス以上に強い敵を倒したんだから、それ以下なんて大したことじゃない。
俺たちはダンジョンの最奥にいるキマイラと対峙するが――
「――ッ!」
俺が神器を一振りするだけで、大きな叫び声を上げながら絶命した。
『キマイラを一撃で倒すとか、なにそれ』
『もはややらせに見えてきた』
『レベルが違いすぎる』
『サイン貰いに行こうかな……』
「皆、今日は配信に来てくれてありがとう。イレギュラーがあったりもしたけど、その辺も含めて楽しんでくれたら嬉しいな。それじゃ、配信はこの辺で」
俺はカメラを止めると、パーティーメンバーの方へ向き直る。
「帰ろうか」
一旦ギルドへクリア報告をしないといけない。キマイラのコア(これが魔物の心臓部)をアイテムボックスにしまって、街に戻る。
ギルドに戻ると、俺は入り口で人とぶつかってしまう。
「あっ、すみません」
「あれぇ、なんか見たことある顔だな、お前」
思わず誤ったけど、相手は不機嫌なようだ。
顔を上げて相手の顔を見ると、見知った顔があった。
「リーダー……!」
「パーティーから追放されたくせにいつまでメンバー面してんだよ。『無能』が」
◇
「最近配信とかやって調子に乗ってるみたいだな、気色悪い」
ハルトが憎々しげにこちらを睨んでくる。すると、ハルトの後ろにいたパーティーメンバーも俺を見るなりゴミを見るような目を向けてくる。
「ハルト様が声をかけてあげただけでも土下座してありがたがるものなのに、なんでこいつはこんなに頭が高いの?」
「無能なんだから礼儀くらいは考えてほしいよね~。あ、無能だからそんな簡単なことも分かんないのか~! きゃはは!」
「斬っていいか? 顔を見ているだけで虫唾が走る」
パーティーメンバーの女子三人はいつものようにハルトを持ち上げ、ご機嫌取りをしている。
「カナたちの気持ちもよく分かるけど、ようやく見つけたんだ。少しくらい会話してあげようじゃないか」
「おぉ……なんて寛大な男なんだ、ハルト。惚れ直したぞ」
「さっすがハルト様です~っ! わたしぃ、こんなざこと話したくないのにぃ~」
「全くね。ハルト様に感謝なさい」
なんで会話もせずに斬るのが正しいみたいな雰囲気なんだ……
「探してたって、なんで」
「君がオレからアリシアを奪ったからだろ! 優しいアリシアを無理やり攫って許されると思うな!」
……なにを言ってるんだこいつは。俺が一人でパーティーを抜けたのは知ってるはず。それなのに、こんな言いがかりをつけてくるなんて意味不明すぎる。
理解が追い付かない俺をよそに、ギルドにいた他の冒険者たちがなにやら話している。
「あの人、キマイラのダンジョンで配信してた人じゃないか……?」
「攫った……? それが本当なら立派な犯罪行為じゃないか……」
「あんなに格好いい配信しておいて裏でそんな酷いことを……」
やばい、ハルトの言いがかりを信じた冒険者が俺に敵意を向けてきてる。なにか反論しないと俺がギルドから追い出されるかもしれない。
焦ったのは俺だけじゃなくて、後ろにいるアリシアもだった。
「違う! 私は攫われてなんかない! 自分の意思で抜けてきたの!」
「それは君がこの無能に洗脳されてるからそう思うだけだ! 早く正気に戻ってくれ!」
もはや話にならない。完全に俺が悪いってことにしたいらしい。
リーダーは俺の後ろにいる三人に視線を向け、気持ち悪い笑みを浮かべる。
「それに……お前、新しい子を見つけてきたのか。……へぇ、中々上玉じゃないか。オレの嫁にしてやってもいい」
こいつ……アリシアだけじゃなくてナナとイオリも狙っているのか。
「オレと一緒にこないか? 一生可愛がってあげるよ」
ハルトの手がナナに向かって伸びる。ナナは恐怖で動けない。ハルトに逆らうのはちょっと怖いけど、ここは男気を見せるとこだ。
俺はハルトの腕を掴む。
「……なにをしてるんだ、無能のクセに」
「無能でも……仲間を守る権利くらいある」
言ってしまった。これで和解はあり得ない。元から、仲良くなるつもりもないけど。
苛立ちが頂点まで達したハルトは目を血走らせて、大きくため息を吐く。
「分かった。どうあってもお前はアリシアも、その子もオレに返す気はないってことだな」
「返すもなにも、最初からリーダーのものじゃない」
「ちっ、オレはアリシアをなんとしても取り返す! 力づくでもな!」
まるで正義のヒーローみたいな決意を表明したハルトは、俺を指して言う。
「オレと決闘をしろ! 負けた方は勝った方に絶対服従だ! いいな!」